勢いを世界に見せつけたのは、新アルバムだけではなかった。米国をはじめ世界5大陸を回ったツアー「エラス・ツアー」が爆発的な人気となり、世界中でテイラー・スウィフト旋風が巻き起きた。
2023年3月にスタートし、2024年12月までの18ヵ月にわたるロングランだった。公演回数は152回にのぼり、約20億ドル(約3000億円)以上を稼いだとされる。
「偏りなく賞を分配」のもとで変わった「女王」への評価
活躍ぶりからするとテイラー・スウィフトがグラミー賞の「年間最優秀アルバム賞」を受賞するのは堅いとみられていた。受賞となれば5回目で、大物ぶりがさらに際立つことになるはずだった。ところがグラミー賞の審査員は彼女を支持しなかった。
破竹の勢いで「女王」に駆け上がってきたテイラー・スウィフトを止めたのは、もう1人の「女王」のビヨンセだった。『COWBOY CARTER』で「年間最優秀アルバム賞」など3つの賞を獲得し、自身が持つグラミー賞の通算最多受賞記録を35回に更新した。
ミュージック業界では売れたからといって賞が取れるものではない。それは当たり前としても、これだけ活躍したテイラー・スウィフトが今回、グラミー賞を1つも獲得できなかったことは「スウィフティーズ」でなくても疑問に思う。グラミー賞の選考理由は明らかにされないが、米国の音楽評論家の間には、主催団体が偏りなく他の優れた音楽家も評価する方針で審査が行われたとの分析が多い。売れている歌手ばかりに賞をわたすのではなく、他の音楽家にも功績を分配しようという考え方だ。もう少し砕けた表現をすると「テイラー・スウィフトはいっぱい賞を取ったから、もういいでしょ」ということだ。
「グラミー賞の申し子」と言われるビヨンセが「年間最優秀アルバム賞」を受賞したことを考えると、この分析も的の真ん中を射貫いているとは言えないが、米ミュージック業界がこれまでのようにテイラー・スウィフトを奉るようなことをしなくなるということは、安易に想像がつく。