企画の段階で持ち込まれたドラマ専門チャンネルのHBOは申し出を断り、HBOよりも事業規模が小さいパラマウントネットワークでの放送となった。

「優等生」的なハリウッドにくみしない無骨な作品

 放送がスタートした2018年は第1次トランプ政権の時代だった。その前のオバマ政権で米国は、リベラルな考えが主流となり、ジェンダーの多様化などが一気に進んだ。同性婚が認められ、トイレを男女で分けない学校や商業施設が続々と誕生した。

 こうした流れに白人を中心とした「保守派」といわれる層が反発し、トランプ政権の誕生となったが、テレビ視聴者の間でも、ヨーロッパから渡ってきた開拓者がどうやって米国を作ったのかという根本的な部分に注目が集まり、開拓以来の土地を守る牧場主の昔気質な生き方が共感を呼んだとされている。

 映画やテレビドラマの世界はハリウッドの力が圧倒的に強い。ハリウッドは民主党の牙城であり、リベラルで「優等生」的なストーリーが主流である。『イエローストーン』はハリウッドで成功したケビン・コスナーが主演だが、ハリウッドにはくみしない作品で「最大勢力への反抗」でもあった。

 ハリウッドの実力者は当初、「イエローストーンは見るな」と周辺に命じたほど、『イエローストーン』の反ハリウッド色は強かった。

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 『イエローストーン』の大ヒットで注目されたのは脚本、監督など製作の総指揮を執ったテイラー・シェリダンだ。俳優だったシェリダンは俳優業に嫌気がさして製作する側になった。母親の実家が「ランチ」で、子どものころ長い時間を「ランチ」で過ごした。その際に体にしみ込んだ生活が「イエローストーン」を生んだ。

 メディアにあまり登場しなくなったシェリダンだが、『イエローストーン』は保守の共和党が強い「レッドステート」のためのドラマだ、という指摘に対し、2022年のアトランティック誌のインタビューで「先住民の強制移住や企業の貪欲さ、土地の収奪について描いている。これがレッドステート向けだっていうのか」と笑い飛ばしている。