メスマーは特別な容器に入れて磁化した水を云々などという謎理論を振りかざしていたわけですが、こんなメスマーでさえ医学の名門・ウィーン大学医学部を卒業できているのだから「恐ろしい」のひとことです。

 マラーの電気治療とメスマーの“磁気”療法だと、前者のほうがやや古いので、現地では流行遅れの健康器具として日本の長崎まで流れてきたものが、平賀源内が入手したエレキテルだったのかもしれません。いずれにせよ、当時の最先端の治療が世界的に見ても「そういうレベル」に留まっていたという事実は記憶しておくとよいでしょうね。

盲人たちによる高利貸し

 さて次回・第13回「お江戸揺るがす座頭金」のあらすじは「鱗形屋(片岡愛之助)が再び偽板の罪で捕まった知らせを受ける蔦重(横浜流星)。一方、江戸城では意次(渡辺謙)が平蔵(中村隼人)に座頭金の実情を探るよう命じる…」とあります。前回、鱗形屋の面々は朋誠堂喜三二(尾美としのりさん)に手を合わせ、「鱗形屋の専属作家でいてください!」とひれ伏して頼んでいました。ドラマでは喜三二の作品や、彼と親しい恋川春町(岡山天音さん)の「黄表紙本」『金々先生栄花夢』が人気という描かれ方でしたし、史実でも鱗形屋が生み出した最後の人気新ジャンルは「黄表紙」でした。それでも借金はかさんでいたのでしょうか。

 黄表紙といえば、現代の漫画の祖先のような本です。「文字が過剰に多い」ということを除くと、一コマ漫画のような作りでした。絵が苦手な喜三二の下絵を見た恋川春町が代わりに描いてやっていましたが、絵で魅せ、文字も読ませるといった新趣向のエンタメ本だったのです。

 ちなみに喜三二の作品を見て、多いにインスパイアされたのが若くして絵師として成功していた北尾政演(きたお・まさのぶ)で、「自分も黄表紙本を作りたい!」と思うがあまり、作家デビューもしています。それが山東京伝なんですね。つまり北尾政演と山東京伝は同一人物で、蔦重のお抱え作家の一人でした。