『おむすび』というドラマは、いつだって常識と常識を正当に評価しながら対立させることができません。どちらかを無価値化、無効化、無能化することでしか結論を導けない。それによってどんな影響が現れるのか考慮できていない。というより、自分たちが何をやらかしているのかも自覚していないでしょう。

 大衆娯楽が医療を扱うとき、もっとも慎重にならなければいけない、というか絶対にやってはいけないのが、標準医療の否定なんです。特にがんに関していえば、世の中にはインチキ代替医療で一儲けしてやろうというヤカラが手ぐすねを引いています。その片棒を担いではいけない。あくまで常識の中で物語を構築しなければいけない。それは大衆娯楽の送り手としての最低限求められるべき資質です。

 今回放送された「点滴なんて意味ないよ」「外科医ってのは手術に耐えられないような低栄養の患者でも平気で切ろうとするよ」というメッセージは、明確に代替医療への誘導を意味しています。インチキ連中に「だってNHKでもやってたろ」と言えるだけの根拠を与えています。

 今回『おむすび』が結さんの“活躍”や“勝利”と引き換えに蔑ろにしたのは、丸尾の命ではありません。実際に、その絶望から標準医療に疑問を感じ始めたがん患者の命です。例えば入院中のがん患者の家族が病院のロビーで今日の『おむすび』を見て、「やっぱり点滴は無意味だし、外科医は信用できない」と考える可能性が、大いにあり得るんです。

 もう一度、自分たちが何を作って放送したのか、よく考えてほしい。

NSTは万能なヒーローじゃない

 丸尾の件の倫理的な問題がクソデカすぎてその後の茶番についてはもうどうでもいいんですが、なんだあの結さんの演説は。

「私は今まで、たくさんの患者さんにお会いしてきました」じゃねーんだよ。たかが10年で何を言ってんだよ。

「食べることは生きることだけでなく、その方の家族や未来にもつながっている」のはいいよ。おまえがやってきたのは患者好みの味を柿沼に特注で作らせることくらいだったけど、それはもういい。その話からNSTの必要性にはつながらないんだよ。