◆横浜流星の身体表現はやってもやられても饒舌だ

『春に散る』は、不公平な判定負けにより鬱屈とした日々を過ごしていた若きボクサー・黒木翔吾(横浜)が、偶然、飲み屋で出会った、元ボクサーの広岡仁一(佐藤)の腕に惚れ込み、ボクシングを教えてほしいと頼み込むところからはじまる。

実は、広岡もかつて夢をもってアメリカに渡ったものの判定負けして、道を断念したという苦い過去を持っていた。広岡に鍛えられて、翔吾は世界チャンピオンを目指す。

(C)2023映画「春に散る」製作委員会
大きな挫折を体験した青年と中年、ふたりの再生の物語は、全編、ボクシングのシーンだらけ。

ボクシングものによくある、状況をセリフで臨場感たっぷりに説明する(実際のスポーツ中継の解説者みたいなもの)ところが少なく、ボクシングはボクシングだけ見せているが、不思議と説明がなくても画面に見入ってしまう。

(C)2023映画「春に散る」製作委員会
(C)2023映画「春に散る」製作委員会
試合のうえでたったひとつの大事なことは、あらかじめ語られていて、それだけ記憶していれば、翔吾が何を目指しているかわかるというシンプルさ。それができたのは、俳優の身体がちゃんと、そういうふうに見えるからだろう。

翔吾に立ちふさがるライバル役の窪田正孝や坂東龍汰も、過去にボクシングものの作品を経験しているだけあって、堂々と横浜流星に猛攻を仕掛けていく。受けて立つ横浜の身体表現は、やっても、やられても饒舌(じょうぜつ)だ。