『源氏物語』の「紅葉賀(もみじのが)」において、雅楽の舞「青海波」を披露した光源氏が、中宮(≒皇后)・藤壺の宮からいただいたお褒めの言葉には、漢文の素養なくしては知りようのない中国の故事が反映されていました。源氏は「高い身分の女性にふさわしい」と藤壺への思いをいっそう深めています。

 つまり、女性の通常の学問とされた、和歌や手習い(書道)、音楽などの他に、天皇の上級妃を目指す女性ほど「こっそり」漢文の素養も積んでいるのが常だったようです。なぜ「こっそり」学ぶかというと、漢文をバリバリ勉強している姿をアピールすることは「自分は皇后の位にも上れる女」と自己宣伝しているようなもので、それが傲慢だと思われたからではないでしょうか。また、紫式部が、漢文の教養をひけらかす清少納言に冷たい眼差しを向けているのも、そういった理由があるからではないか……と筆者は考えています。

 ドラマでは藤原道長(柄本佑さん)たち、若手貴族の男性たちが勉学にいそしむ姿も出てきました。町田啓太さん演じる藤原公任が『孟子』の一節を暗唱してみせましたが、実は『孟子』を含む「四書五経」は、初学者のためのテキストにすぎず、現代なら小学校を卒業する年齢くらいまでのうちに、すべて暗唱できるようになっておかないとダメだったのですね。我々が驚くほどの記憶力と勤勉さがなければ、平安時代の貴族社会では出世など夢のまた夢だったのです。

 さて、次回は、まひろが「五節の舞姫(ごせちのまいひめ)」に選ばれ、天皇をはじめ高貴な方々の御前で舞を披露するという展開となりそうです。ここで道長とまひろは偶然出会い、互いの素性を知ることになるのでしょうか。