ただ、無意識のうちに「二次的」な形で微量のフェンタニルが体内に入っても、重大な問題に発展するケースはまれだ、と指摘する専門家の声は少なくない。子供に注意を促すのは当然だが、過度に神経質になるのは行き過ぎだとの意見だ。
米国では麻薬鎮痛剤のオピオイドの過剰摂取が社会問題となり、摂取による死者は年間10万人を超えている。フェンタニルは米国の「麻薬戦争」の主役のひとつだ。2月7日に行われたバイデン大統領の一般教書演説でも、フェンタニル対策の強化が政権の重要課題として盛り込まれた。
メキシコの犯罪組織などがフェンタニルを米国に密輸しているが、その原料は中国で製造されており、米国の対中政策の大きな課題にもなっている。ブリンケン国務長官の訪中は中国の偵察気球問題で延期となったが、この訪中でもフェンタニル問題は最優先課題の1つとして議題に上る予定だった。
フェンタニルをめぐるこうした米国の実情が、「拾うな!危険」の背景にある。その一方で、米国の都市部で流通しているドル紙幣の約90%に微量のコカインが付着しているということも、マサチューセッツ大ダートマス校の調査などで明らかになっている。フェンタニルを包んだドル紙幣を過度に恐れることはないという声も、麻薬が蔓延する米国では筋の通った話である。