里親のための制度に、「レスパイトケア」がある。里親が一時的な休息のために援助を必要としたとき、他の里親や児童養護施設などに里子を預けられる制度だ。これを活用しようとシンさんは考えている。

「最初は全部完璧に、ちゃんと料理も作って、時間通りに寝かせて……と考えてやってましたけど、自分が余裕がなくなると子どもに優しくできなくなっちゃうんですよね。ちゃんと子どもを1人で育てていくという覚悟を継続させていくため、まずは自分が無理せずに生活できていないと他人に優しくすることもできないし、面倒を見るなんてできないんだなと思うようになったので、そこからは抵抗なく使おうと思っています」(シンさん)

 里親が休息をとるため、他の里親が代わりをする。いい制度だし、里親だけじゃなく、他のシングル家庭にも適応してほしいくらいだ。シングル里親にしろシングルにしろ、みんなで子どもを育てる環境があったら助かる。

山里 「今、お1人で里子を育てて、不安に感じることとかってありますか?」

シン 「不安……というか悩みはすごくあります。自分としては、本当にこの子を育てたいんです。でも、子どもからしたら両親がいる環境でちゃんと育ったほうがいいんじゃないかな? っていうふうに思うところはあります」

 まさに、里親ならではの葛藤。育つ家庭を選べるからこその悩みだ。

「今、私が育ててるっていうのは、ある意味、『私が育てたい』ってエゴを児童相談所の方が聞いてくれ、そのまま育てさせてもらってるんですけども。結局、これは里子という制度なので、両親が揃っている里親に育ててもらうこともできるんですよね」(シンさん)

 両親が揃っていれば、子どもは幸せか? いや、子どもを大事に思ってくれる人がそばにいたほうが幸せではないか? 何度も親が変わるのは子どもにとって幸せなのか? これは、「幸せとはなにか」を突きつける究極の問いだ。

 シンさんに言葉をかけたのは、自身もシングルマザーとして息子を育て上げたYOUである。

「おっしゃることはわかるような気もするんですけど……わかりますよ、そりゃ。そこを慮っちゃうのはわかるんですけど、みんなで育てる感じでいいような気がします。それこそ、学校の親御さんとか養護施設の方とか、これから出会う方たちとも、みんなで育てる感じで……いいような気がします」(YOU)

 泣きながらシンさんにアドバイスしたYOU。親として思うところが、彼女にはあったのだ。

「私も大事に育てたんですけど、結局、親の言うことなんか聞かないじゃないですか? 他人の言うことばっかり聞くんですね、子どもって! 急に、バイト先の店長の言うことのほうが聞くようになったりとか。そう考えると、『みんなで育てていこう』っていうふうに思います」(YOU)

「みんなで育てる」ができたら、本当にいいと思う。幼稚園から一貫して繰り上がる私立学校へ息子を通わせたYOUは、きっとそれができる環境だった。しかし、シンさんの里子はまだ3歳。学校に上がっていないし、他の大人たちとコミュニティを築けるほどの人脈が彼にはまだなさそうだ。だから、頼れる場所づくりができる制度が大事だし、みんなで子育てできる国になる必要がある。

YOU 「でも、たぶんねえ、息子ちゃんはきちんと育つんですけど、シンさんが心配ですね。息子ちゃんはおにぎりでも握っとけば、そんな大したもん食わなくても大きくなりますよ」

シン 「わかりました(笑)」

YOU 「私も、言い方悪いですね(笑)。そのうちね、『パパー!』って言ってるのが懐かしくなるぐらい、テメエ! ってなってくるんで」

シン 「それはそれで、なんか寂しい気もしますけど(笑)」

YOU 「だから、すごい寂しいので味わっておいてください、それね」

シン 「はい、わかりました」

 さっきはYOUの言葉でほろっときたが、今度はYOUの言葉に笑ってしまった。今回の『ねほりんぱほりん』は、YOUが持つ母としての一面もあり、優しく終わった。

 シンさんのような里親に預けられた子はまだいいけれど、実親も里親も“はずれ”だった場合、その子のメンタルはどうなるだろう? という心配も、筆者はふとよぎった。だから、里親制度のハードルは高くなる。「悪い奴がいるせい。悪い奴のせいなんです、全部」という、山里の言葉も重い。
(文=寺西ジャジューカ)