里親が里子の銀行口座を作るときに抱く不安
その一方で、里子ならではの大変さもある。
「いろんな手続き関係で、まずつまずくんですよね。役所に出す書類だとか、病院のワクチンの問診票とか。私が代筆するんで、子どもの名前を書いて、『その横にお父さんの名前を書いてください』って言われて。私の名前を書くと苗字が違うので、『誰ですか?』みたいな顔をされちゃうようなこともありますし(苦笑)。あと続柄を書くときに、『私は何になるんだろう?』と。『この子にとっての私ってなんて書くのかな?』って、最初の頃はすごく迷ったりしました」(シンさん)
それ以上に大変なのは、お金関係の手続きだ。
「銀行の口座も大変で。例えば、私が『この子の将来のため』と思ってその口座にドンドンお金を入れといたとして、里子の委託解除になっちゃうと、子どもの親権は実親さんにあるので、そのお金は全部、その子の実親さんに行ってしまうので。『子どもの将来の大学のため』と思って貯めといたのも、実親さんが勝手に使っちゃっても問題なくなっちゃうというか」
「なので、子どもの口座じゃなくて、私は私の別の口座を作って、そこに、将来のその子用としてお金は入れてはいるんですけれども、まとまって渡すとなると贈与税がかかる(苦笑)」(シンさん)
しかも、シンさんはその子のために学資保険どころかその他の保険も加入できないのだ。親が子のためにする一般的なことが、里親にはできない。そもそも実親がやっておくべきことだが、そちらへ戻ったとき、実親がお金を貯めていない不安を考えると、シンさんはやらずにいられない。法律の壁の厚さは、制度的欠陥のようにも思えてくる。システムを変えるなど、なんとかならないものなのか……。
YOU 「だから、『へんてこりんな人がいたりすると嫌だな』っていう。守るためのことなんだろうけど」
山里 「そうそう、悪用する人のための。悪い奴がいるせいだ。悪い奴のせいなんです、全部、いろんなものを複雑にするのは」
悪い人がいるかもしれないから、仕方ない。これに尽きる。社会の縮図が、里親制度の面倒臭さに表れている。
山里 「したくない説明ってあるじゃないですか。だって、自分の大好きな子どもの話なのに、わざわざ『子どもじゃない』って説明を毎回しなきゃいけないって、すごい苦痛じゃないですか」
シン 「苦痛ですね。やっぱり皆さん、戸籍だとか血のつながりに結構こだわるんですよね。そもそも、夫婦って血もつながってないし、他人じゃないですか。他人なのに、夫婦って結婚したら家族じゃないですか。なんで、子どもはちゃんと血がつながってないと家族って言ってもらえないのかなって思います」
たしかに、血のつながりだけが家族ではない。
シンさんは夫婦で里子を育て始めたが、里親制度は単身者でも里子を受け入れられるらしい。つまり、独身のシングル里親もいるのだ。そこは柔軟なんだな!
この情報は学びになったが、反面、「里親を買って出た大人が小児性愛者だったらどうなるのだろう……?」という不安を、筆者は抱いてしまった。考えすぎの杞憂ならそれに越したことはないし、この発想はまさに「悪い奴がいるせい」である。
番組は、1人で里子を受け入れた人たちに話を聞いていた。1人目は、シングル里親歴5年のキワコさん(40代)だ。現在、6歳になった男の子を1人で育てている。
「もともと子どもは大好きなんですけれども、結婚っていうイメージが自分には全然自浮かばなくて、子どもを自分が産むっていうのもイメージができなくて。『自由に自分1人で生きていきたい』という感じで好きに生きてたんですけど、30代半ばぐらいになると、『自分だけこんな自由に好きに生きていいのかなあ?』って。『もうちょっと、自分も社会の役に立ちながら生きていく必要があるんじゃないのかなあ』って考えて。自分が子どもが好きっていうなかで、生まれた家庭で育つことが難しい子どもたちのことが浮かんで、『もし、私のうちでもいいって言うんだったら一緒に暮らしたらどうかな?』ということで、里親をしたい思いが出てきた感じです」(キワコさん)
見上げた人だと思う。なかなか、こういう発想にならないと思うのだ。
2人目は、シングル里親歴4年のナオさん(50代)。高校生男子(兄)と中学生女子(妹)の兄妹を1人で育てている。
「私は児童館で働いているんですけれども、児童館に来る子どもたちの中にも車上生活……車の中に学校の道具や洋服が全部あって、公園のトイレに行ったり、車から学校に通うような生活をしていたり、親から言われて子どもがコンビニのお弁当を盗って家族で食べるということがあったりしたので。そういうような子どもたちを見ているなかで、一歩足を踏み出したいなと思ったところがきっかけでした」(ナオさん)
まさに、映画『万引き家族』の世界だ。児童館勤めのナオさんは、凄まじい世界を目の当たりにしてきていた。シングル里親の方々の覚悟は、本当にすごい。
同時に気になったのは、単身者で里親になった例に男性がいなかった点である。今という時代に性差をつけるのは違うと思う反面、女性のほうが審査が通りやすいという現実があるのかも……と感じた。