里親制度は「長期の預かり」 実親に返さなければいけないことも
当初、2人は養子縁組も視野に入れていたそうだ。
「NPOの特別養子縁組を斡旋する団体のいろいろな説明会を回ったんですけれども、そういうところでよく言われるのは『共働きじゃダメです』と。その家庭の中で専業主婦(専業主夫)がいて、ちゃんとその子に向き合える態勢があるかどうか? っていうのは言われました」(シンさん)
敷居が高い。もう少し柔軟なほうがいい気もするし、現代の社会を考えると制度の内容が昭和な気もする。時代錯誤な「子どもを保育園に入れるのは可哀想」という声と大差ない気もするが……。
「特別養子縁組は子どものための制度であって、親のための制度なんですよね」(シンさん)
なるほど……。そもそも、親が面倒を見られないので里子に出された子どもたちだ。それだけで、心が荒んでいる子は多い。傷ついている子を愛情で癒せる家庭に託したいのは、当然。親が育てられずに出されたのに、保育園に面倒を見させるわけにはいかない。子どもたちに再びダメージを与えさせてはならない、か。
シンさん夫婦は特別養子縁組を諦め、共働きのまま里親になることを選んだ。
「里親登録が終わってから半年後くらいに、里親相談所から『もうすぐ、生まれる子がいます。児童相談所としては、その両親には子どもを育てる能力がないと思うので、たぶん長期の預かりになるだろう』と」(シンさん)
子どもが生まれる前から、里子のオファーが来るのか……。未成年の夫婦による出産など、さまざまなケースがあるのかもしれない。
微妙なのは、「長期の預かり」という文言である。一応、その子が18歳になるまでの受け入れが予定されているようだが……。
シン 「児童相談所のほうで、『父親さんのほうに子どもを育てる環境ができた』ということになったら『そこまでです』っていうこともあり得ます」(シンさん)
YOU 「返さねばならぬときがあったりするってことだ」
子を産んだときは環境が整ってないから誰かに育ててもらい、環境が整ったら「返してください」と申し出る。都合がいいというか、実親がいいとこ取りするようなシステムにも思えた。ある程度一緒にいたら里親も里子も離れ難いだろうし、なにより子どもが気の毒では……。“生みの親”より“育ての親”だと思うのだけれど。なにより、いつか返さねばならない子育ては完全なる社会貢献でしかなく、しんどい。
児童相談所から連絡があった男児は、生後1カ月でシンさんの家庭に受け入れられた。
「(生活は)本当に一気に変わっちゃいましたね。おむつを替えたり、夜にミルクをあげたり、夜泣きしているところを30分~1時間くらい抱っこしながらうろうろするとか。大変なんですけど、友だちが『子育てって大変よ』って楽しそうな顔しながら言ってるのがわかるっていう気分にはなりました」
「自分以外の誰かですよね。その子のために何かをしてあげられるっていうのが、私たち夫婦が求めていたことなのかなというふうには感じました」(シンさん)
シンさんご夫婦にとっては、生きた証ということか。「自分以外の誰かのために」は、親子関係に限らず人間にとっての大きなテーマである。