ともすれば「頑張らなきゃいけない」「頑張ることこそが美しい」といったメッセージを暗喩することがドラマを作る意味だと考えてしまいそうだが、バカリズムの描く世界は、現実世界ではあり得ない出来事が起こりつつも、どこまでも「目の前のものを淡々と受け入れるしかない日々」の連続で、「それが小気味よい」と吉田氏は言う。

「メッセージ性が強いと、疲れちゃうという人も多い時代。女友達の楽しそうな、でも打てば響く会話の平和で害がないリズム感が心地よいんだと思います」(同前)

増殖する芸人脚本ドラマ

 ヒット作を連発したことで、確実に業界内での信頼度を高めたバカリズム。今後はその存在感がさらに増していくことになりそうだ。

「たとえば、三谷幸喜さんや宮藤官九郎さんは、作品の内容以前にその名前だけで注目される脚本家です。バカリズムさんは、完全にその領域に達したと言える。執筆オファーをしたいと思っている関係者は多いでしょう」(ドラマ関係者)

 ただし、バカリズムは当分の間“日テレ案件”になるのではないかとも囁かれている。というのも、『ホットスポット』放送開始前に公式サイトで公開されたバカリズムのコメントによると、『ホットスポット』の原案は「企画を3つぐらい出したときの1番下」だというのだ。つまり、“数合わせ”で出した企画が実写化されたということであり、今後、残った企画がドラマ化される可能性も十分に考えられるということになる。

「『ブラッシュアップライフ』が2年前で、2024年1月のスペシャルドラマ『侵入者たちの晩餐』を挟んで、今回の『ホットスポット』。バカリズムさんはここ数年、地上波では日テレばかりで脚本仕事をしています。仮にまだ企画が残っているのであれば、あと1~2年は日テレでの仕事が続く。バカリズムさんは難しいとなると、別の人気芸人さんを脚本家として立てようと目論む制作陣はいるでしょう」(同)

 そもそも昨今、芸人が脚本を担当するドラマが増えており、直近でも、ヒコロヒーがABCテレビ・テレビ朝日系『トーキョーカモフラージュアワー』の脚本を担当。2022年6月に3夜連続で放送されたフジテレビ系ドラマ『脚本芸人』では吉住、水川かたまり(空気階段)、岩崎う大(かもめんたる)の3人が脚本を描き下ろしたほか、2024年4月には加納愛子(Aマッソ)が『スナック女子にハイボールを』(中京テレビ)で脚本を担当している。また、地上波ではなくネット配信だが、じろう(シソンヌ)はAmazon Prime Videoのオリジナルドラマ『No Activity』の脚本を担当し、シーズン2まで配信されている。

“ポストバカリズム”は誰なのか