不動産余りの未来をどう考えるか
この先、人口の減少とともに不動産は余っていくといわれている。余るのであれば貸してもらえないこともないだろうし、賃料だって下がるだろうから、そんなに心配はないのではないだろうか。
そのような考え方もあるだろう。しかしそれは早計である。現状の入居率をご存じだろうか。2016年6月1日付けの日本経済新聞朝刊によると、2016年3月の神奈川県の空室率は35.54%、東京23区や千葉県でも空室率の適正水準とされる30%を3~4ポイントほど上回っているとされている。つまり現状でも多くの家主は、空き部屋に悩まされているのだ。
だというのに高齢者をめぐる賃貸事情は、改善どころか悪化に向かっている。となれば将来的に不動産余り加速しても、高齢者の受け入れが大きく好転する見込みはないと考えておいた方が安全ではないだろうか。
いくら余っていても貸したいと熱望しても、更に収益を悪化させる可能性を持つ入居者は入れたくない。そう考えるのが家主というものである。孤独死や滞納の可能性が高い高齢者を入れるくらいなら、条件は悪くなっても若い入居者を希望するのが常なのだ。
住まいに不安を持った状態では、幸福な余生は望めない。買うにしても借りるにしても、そのための方策を、若いうちから考えておくべきといえるだろう。
自身の状況に見合った住まい。それこそが最終結論
生活環境が変化した場合、それに応じてすぐに引っ越すことができる。これは賃貸住宅の大きなメリットといえる。転勤の多い人や家族構成に変化が考えられる人には、とても好都合だといえるだろう。
しかし賃貸住宅には前述したように、高齢者となった場合の不安がある。そしてそれは定年後に住宅ローンを残した場合にも、全く同じことがいえる。したがってどちらを選ぶかは、ケースバイケースが正解となる。では、どのケースでどういった選択が安全なのか、ここからはそれを考えていこう。
賃貸住宅を選んでも不安の少ない世帯
賃料支払いに心配のない貯えがあり、子や孫と同居している世帯は、賃貸物件に住み続けても不安は少ないといえる。
具体的な基準は以下の通りである。(1)か(2)のどちらか片方だけでも実現できれば、住居確保の面では安心して老後を過ごすことができるだろう。
(1)十分な預貯金
定年時以降、平均寿命に至るまでの期間に支払うことになる賃料相当額にプラスして、必要最低限の生活費を貯蓄できている。
(2)単身、または夫婦ふたり世帯とならない家族構成
子や孫、もしくは兄弟姉妹との同居が確約され、世帯の後継者がはっきりしている。
預貯金によって賃料支払いに問題がなければ、あとは物件確保だけが懸念材料となる。家主が高齢者世帯を敬遠するのは孤独死や賃料滞納を不安視するからだが、子や孫との同居世帯であればそれも解決する。
しかし子や孫の生活を縛るのは難しい。預貯金は自分の努力次第といえるが、自立する子がどこで生活するかは、親が決めることではないからだ。となれば賃貸契約自体を強化するのが、子の独立に備えた手段となる。比較的長期契約が可能となる、定期借家権契約を条件とする物件を探しておこう。60歳前後での30年契約は難しいかもしれないが、定年までにできるだけ長期契約の物件を手立てできれば、退去を迫られる心配は大幅に減ることになる。
購入を選んでも不安の少ない世帯
長期の住宅ローンを組んでも定年前に支払いが終わる年齢での購入であれば、老後の生活費の不安は少なくなる。ローンさえ完済すれば価格相場が下がっても売却自体に問題はないので、家族構成の変化とともに所有物件が広すぎる状況となっても、小さな物件への買換え、賃貸物件への移り住みのどちらも可能となる。
また、購入の場合は資産としての活用も可能となる。10万円で人に貸して自分は5万円の賃貸物件に入居するといった運用を行えば、年金の他に収入源が得られ、生活費に余裕を持たせることも可能となるのだ。
しかしこれらはすべて、リタイア前にローンを払い終わっていることが前提となる。また、売りやすい、貸しやすい物件でないとその前提も無意味となってしまう。購入時に安い物件は、売却時も安いままである。バス便などの交通事情の悪い物件や、近くに嫌われやすい施設がある物件は購入を見送るべきだろう。
「終の棲家」は計画次第
今後日本は更なる高齢化社会となり、現在より高齢者世帯の自立が求められる時代がやってくるといわれている。であればそのときに安心して生活できる環境づくりこそが、賃貸か購入かを決めるにあたっては、最も重要な根拠とすべきなのではないだろうか。
もちろん、老後住居の安定性さえ確保できれば、賃貸と購入のどちらを選んでも心配はない。そのためには賃貸なら賃料支払いの財源、購入であれば定年前のローン完済が重要となる。それらの実現を30代、遅くとも40台までに計画できていれば、住居選択は好みの問題となる。
したがって先のことだと楽観せずに、住居を含んだ老後の生活設計を確固たるものにしておくことこそが、賃貸にするか購入にするかという、住居選択の究極のテーマに答えを導く方策となるのである。
文・近松健司(不動産業界経験豊富なライター)/ZUU online
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