新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、テレワークが急速に普及しています。メンタル面を含めた体調管理や仕事効率が課題に挙がる一方で、「テレワークでも十分成果を出せる」「引き続き、テレワークを継続したいという声が多い」など、前向きな意見も目立っています。実際にテレワークで働く人は、どのように感じているのでしょうか。
仕事もプライベートも、人間関係がフラットになる?
2020年4月、東京を含む7都府県に緊急事態宣言が発出され、これが全国に拡大されたのにともなってテレワークなどの働き方が広がりはじめてから、およそ4ヵ月が経過しました。これによって働き方が大きく変わったという人も少なくないでしょう。
NEC発の人工知能(AI)をベースとするIT企業・ドットデータ(dotData, Inc.)の日本法人でマーケティングを担当する榊陽子さんは、現状のテレワークスタイルについて「仕事もプライベートも、Zoomなどのビデオ会議ツールという1点を介して進めるようになりました」と話します。
ビデオ会議によるコミュニケーションでは、仕事もプライベートもノートPCの15インチほどの画面で展開していきます。すると本来まったく違うはずの仕事とプライベートが、同じツール上でテキスト、画像、動画など画一化した手段を用いてコミュニケーションを進めるせいか、両者の違いを以前ほど感じなくなってきたと言います。
榊さんは、「会社の会議」はもちろん、趣味の「スパルタンレースや料理研究」、かつて一緒に働いていた「仲間との交流」を含め、ビデオ会議ツールなどを使って積極的にコミュニケーションをとっています。
本来は、それぞれの空気感、匂い、場所があり、違いは明確なはずですが、ノートPCを介した瞬間、すべてのコミュニケーションがデジタルに変換された共通のメッセージで進行することによって、どのコミュニティとのコミュニケーションも体感として同質化していくようです。
これは、今まであまりなかった感覚であるのは間違いないでしょう。
こうした新しいコミュニケーションには、副次的な効果が多く見られます。趣味を含め、自分の感覚を理解する人と日々接することで、さまざまなアイデアが浮かび、それを仕事に還元できることが1つとして挙げられます。たとえば、マーケティング担当者が、研究開発に没頭する友人と話しているうちに、新たな企画を思いつくといったことも考えられるでしょう。
榊さんの場合も、これまでの仕事経験の中で一緒に仕事をしてきた関係者を含め、継続的なコミュニケーションを取ることで、現在の仕事の幅が広がっていると言います。
従来はオフィス環境が物理的、制度的、心理的な壁になり、土日や終業後など意識的に時間を取ることでしかつながれなかった人々とも、自宅から隙間時間などを利用して気軽に顔を見ながらコミュニケーションできるようになりました。
仕事とプライベートは本来異なるものですが、コミュニケーションが身近となり同質化することで仕事の幅が広がり、良い意味で緊張感やストレスが取り払われるのであれば、これはテレワークのプラス面ととらえることができるでしょう。
マネージャーはどんな工夫をしているか
一方で、テレワークの体制を管理するマネージャーの役割を持つ場合は、また別の視点を持って仕事に取り組んでいるようです。「テレワークうつ」などの言葉が聞こえてくるように、1人で仕事を抱え込むリスクがあるテレワークでは、メンタル面を含めた体調管理が必要になってきます。
同社のシニアソフトウェアエンジニア、竹井成和さんは3人のチームをまとめており、「チームメンバーの状態を把握するために、毎週1on1のミーティングを実施しています」と話します。仕事をしていく上でつまずくポイントをいち早く見つけ出し、うまく先回りしてアドバイスしたり、体調面を気づかったりすることで、チーム内の信頼関係が高まっていったと言います。
“働きすぎる”というリスクにどう対処するか
テレワークは、通勤時間がないことに加え自宅にいるため、「午後6時だからもう帰る時間」といった感覚がなくなり、働き過ぎてしまうというリスクをはらんでいる場合もあります。これを「リモートワークのちょっとした弊害」と指摘する竹井さんは、働き過ぎを防ぐには個人の状況を把握することが重要と言います。
ドットデータの場合は、情報共有のソリューションであるSlack上に個人の情報発信の場を設け、仕事上の困ったことや悩みを共有できるようにしています。これにより、周囲が働き過ぎに気づいたり、仕事の課題をいち早く共有できたりしています。
また竹井さん自身はテレワークの機会を使って、共働きの配偶者と共同で子育てをしながら働くということにチャレンジしました。保育園への送り迎えなどをうまく調整しながらやりくりするために、通勤時間で1日が分断されないメリットは大きいそうです。
働き過ぎるといったリスクを十分意識した上で、テレワークの良い点をうまく活用していけば、結果としてワークライフバランスを達成し、満足度の高い働き方が実現すると言えそうです。