株式会社コンビが運営するCombiTownのデータ(※)によると、第一子の出産において、 「里帰り出産をした」 、もしくは 「産後里帰りをした」 という人は全体の65%にのぼります。そのうち、 「自分の実家に里帰りした」 という人は98%で、里帰りを希望したほぼ全員が自分の実家に里帰りをするという結果でした。

里帰り出産は、気心のしれた実父母が、出産を迎える娘を身体的にも精神的にも支えること。日本では古くからおこなわれている慣習で、江戸時代のころから始まっていたといわれています。その際、里帰りを受け入れる親の役割は、出産という大仕事を成し遂げた娘の心身を休ませ、育児をスムーズにスタートさせる手助けをすることです。データが示す通り、里帰り出産をする人がこれだけ多いということは、産後における “身近な人” は夫以上に実母である可能性が高いです。

しかし、一度親元を離れると、一緒に暮らしていた頃のようにはいかないことが多々あります。

少々残酷な言い方かもしれませんが、 「実母だからなんでも分かり合える」 とは考えないほうが無難です。なぜなら、出産という家族にとっての一大イベントを経ることで母と娘という親子関係が大きく変化するからです。実母は 「祖母」 に、娘は 「母親」になり、特に新米ママは産後すぐに新しい役割を受け入れ、慣れない育児が始まります。どんなに仲の良い母娘でさえも、里帰り中に衝突してしまうことがあります。これは、誰にでも起こりうる自然なこと。

とはいえ、衝突が大きすぎれば疎遠のきっかけにもつながり、かけがえのない育児の応援団を失ってしまうこともあります。

今回のコラムでは、助産師である私から、里帰り先での母娘の関わり方や具体的な言葉がけについてお伝えします。実母をかけがえのない応援団にする方法についても綴っていきます。

(※)CombiTown 里帰り出産に関する調査

まさか実母との関係がギクシャクするなんて……

病棟勤務の頃、入院中の新米ママのお母様からこんなことを言われたことがあります。

「最近のママは、産後うつになるんでしょ? でも娘には私がいるから大丈夫。実の親だから娘のことよくわかっているし」

一方の新米ママもこう話します。

「初めての育児が大変で赤ちゃんと二人きりの生活が苦しくなる人もいるんですね。でも、私は里帰りするし、母もいるからきっと大丈夫」

助産師は、退院してからのサポートがあるかどうか、必ず確認します。サポートがあっても母娘の仲があまりよくなければ、地域の保健師と連携をとることもありますが、この母娘のように関係が良好そうであれば特別なフォローはしません。しかし、残念なことに、この新米ママは、後日、母乳外来で 「実母と暮らすことが辛い」 と泣いていました。

実は、私も実母との関係にギクシャクした一人です。

助産師である私は知識もあるし、実母も里帰りを受け入れるのは3人目なので、私自身は産後うつとは無縁だと思っていました。しかし、実際は産後、実母の言葉に追い詰められ、産後うつ手前の状態になってしまったのです。どれだけ知識があっても身近な人の言葉で産後うつになる可能性がある…… 身をもってそう思い知りました。

<私たち、こんな言葉で傷つきました!>

新米ママたちが実母に言われて傷ついた言葉たちをご紹介します。どの言葉も本当に思いがけず心に刺さってしまったものばかりです。

「母親なんだから、頑張らなくちゃ!!」

「帝王切開だったから、そんなに身体は辛くないでしょう?」

「白湯は飲ませなくていいの? 私の時代は〇〇だったわよ。」

「この子、今お腹空いているわね。おっぱいあげた方がいいんじゃない?」

「おっぱい、あげ過ぎなんじゃない?」

「お菓子なんて食べてないで、もっと母乳にいいものを食べなさい。」

「そんなに泣かして…… かわいそうでしょ!」

「そうじゃないわよ! だめ!!」

私、書いていて辛いです。

毎日、こんなことを言われたら誰だって自信をなくしちゃいますよね。もしかしたら、「えっ? こんなことで?」と思う方もいるかもしれませんが、産後のママはそれくらい気が張ったり、追い詰められたりしているのです。

母娘のバトル勃発!! でも、本当はお互い想い合っている

産後の新米ママは “手負いの獣” とたとえられるように、身体的精神的にボロボロで追い詰められている状態です。そんな中で育児が始まり、慣れない日々の疲労や産後のホルモン変化も加わって、普段なら気にならない言葉にイラっとして、反発したくなってしまいます。

実母は、基本的に自分自身の子育て経験をベースに娘をサポートします。昔と今では子育て事情が異なる部分も多いのですが、あくまで経験値から娘にアドバイスするので、病院の指導と違うことが多々あります。ママの不慣れな手つきを見て、助けてあげたい気持ちから「こうするのよ!」と、口や手が先に出てしまうこともあるはずです。

そんな実母の行動で、新米ママは混乱し「押し付けがましいな」、「辛いな」と感じることがあります。他にも、実母の「私はおっぱい出たんだけどねぇ……」や、「向こうの赤ちゃんは大人しいわねぇ」といったような他人と比較するような言動が新米ママを追い詰めることもあります。

ストレスが増加する原因は、こうした言葉がけ以外にも、お互いの生活スタイルの違いも影響しています。たとえば、起床時間が異なることによる睡眠不足や、洋食が食べたいのに和食ばかりで食べたいものを食べられないというようなことがあります。

その結果、「お母さんいちいちうるさいんだよ! 口出さないで!(怒)」あるいは「私、もうママをやっていく自信、ない(涙)」なんてことになったりするのです…… 

私自身は、実母の「自信持ちなさい! 助産師でしょ!」という言葉に最も傷つきました。「実母が自分のために一生懸命お世話をしてくれているのに、辛いなんて言えない……」、「私が我慢すればいいんじゃないかな……」と思い始めると、心の中では辛い! と感じていても、それを実母に伝わるように言葉にできず苦しみました。常にいっぱいいっぱいな手負いの獣。当時の私の頭では考える余裕すらなかったのです。

娘は、実母のことをとても頼りにしています。そのため、実母が何気なく言ったことに、すごく傷ついてしまいます。でも、その言葉の根っこには、我が娘・孫のためにできるだけのことをしてあげたいという、実母の深い愛があるのです。私の母も、「もっと娘に自信を持たせたい。孫のためにも、自信に満ちたママにしてあげたい」という願いを込めて叱咤激励してくれていたようです。