さらに、「企業で誰かが欠けたら急に製品の品質が落ちるようではダメです。同じように私の理想はスタッフ一人ひとりが自分に与えられた役割を果たし、仮に私が監督ではなくなっても強さが維持されていく組織文化をつくることです」とコメントをするように属人的にならない組織づくりを意識していることがわかる。

 適材適所で選手を起用することにより、チーム力を最大化させているのだ。近年の健大高崎の強さはこの部分も要因としてあるのだろう。

伝説の営業マンが率いる大阪の強豪校

 最後に、大阪の二強と言われている全国屈指の強豪校の大阪桐蔭と履正社に勝利した大阪学院大高の監督である辻盛氏は大手保険会社勤務時代に13年連続ナンバーワンの売り上げを達成した伝説の営業マンだ。現在は会社を経営しており、『営業は自分の「特別」を売りなさい』(あさ出版)などのビジネス書を出版。

 辻盛氏は、2023年春に高校野球の監督となり、朝9時から15時までは会社勤務ののち、16時からは大阪学院大高校のグラウンドに顔を出している。週末の練習試合でも指揮を執り、遠征にも同行する日々を送っている。マネジメント法としては森林氏と同様に「ノーサイン野球」を貫いている。

 辻盛氏は「web Sportiva」のインタビューで「採用と教育が大事なのは、野球も会社も同じです」と語っており、ビジネスの考え方を野球にもうまく横展開している。ビジネスの場で論理的でかつ合理的な思考が養われ、その思考法が人材育成やチームビルディングなどに活かされているのだろう。「多様化」が受け入れられるこの時代で、ビジネスの成功体験を高校野球の舞台でも活かす指導者は今後増えていくはずだ。

 このように、選手に対するアプローチ方法は数多くある。例えば、チームに対するマネジメントに関して、教育者から見る視点とビジネスパーソンから見る視点は、異なる部分もある。チームづくりや選手に求めることは変わってくる。だからこそ、ほかの業界の別の視点を取り入れるメリットは多くある。