なので、アレックスには「私があなたを100%理解できないように、あなたも私の気持ちがわかるわけではない。だから私のことを自由に書かせて」と伝えました。そして、私がこれまでに経験したこと、勉強してわかったこと、わからなかったこと、抱いていた悩みなど、すべてを吐き出すようにしたんです。

◆定義がないジェンダー「ノンバイナリー」

アミア・ミラーさん
――もともと、アレックスさんがノンバイナリーであることには気づいていましたか?

アミアさん:私が見る限りだと、ジェンダーのことで悩んでいるようには見えませんでした。アレックスが住むシアトルは若者が多く、LGBTQ+当事者が当たり前に周りにいる街です。なので、大人になるにつれアレックスの知識が増え、当事者の友人と関わるなかで、ノンバイナリーとして生きる選択肢が現れたのかなと思っています。

――ノンバイナリーはとても流動的なジェンダーであると感じました。

アミアさん:特にノンバイナリーは流動的です。人によって男性的・女性的な装いをする人もいれば、着る服やメイクなども違う。それぞれの表現が異なるのがノンバイナリーです。アレックスはネイルをするのですが、男の子として育ててきた子どもに「新しいネイルサロンを見つけたから、一緒にネイルしに行こう」と言われる日が来るなんて思ってもいませんでした。

ですが、実際に一緒にネイルをするととても楽しくて。私には固定観念がありましたが、本人が楽しければそれでいいと思うようになりました。

――日本では歌手の宇多田ヒカルさんがノンバイナリーをカミングアウトしたことで、「ノンバイナリー」という言葉が取り上げられる機会が増えました。アメリカでノンバイナリーという言葉が知られるようになったきっかけはありますか?

アミアさん:アレックスが住むシアトルは、Amazon、Microsoft、ボーイング、Adobeといった大手企業の本社が集まる都市です。そうした企業で働こうと、大学を卒業した多くの若者たちが集まるので、若者的な新しい考え方が浸透します。カミングアウトをする当事者の多くが20代ですし、SNS上や街中でノンバイナリーやLGBTQ+の存在は当たり前のように受け入れられているのでしょう。