糸島、行ってない。

 なんで?

 みんなで糸島でおむすびを食べた夢を見たから、もうそれで満足ってことなの?

 パパと糸島の関係を整理すると、生まれ故郷であり、18歳のときに勘当同然で神戸に引っ越して床屋になった。震災を機に糸島に戻り、農家になってしばらく過ごした。神戸に空きテナントが出て、再び戻ってきた。

 じいじが一家の神戸への移住を許した条件は、結がすべての休暇を糸島への里帰りに使うことでした。

 実際には、結が翔也のギャル化の際に一度帰郷しただけで、それ以外、どれくらいの頻度で米田家が糸島に帰っていたのかはわかりません。脳内補完しようにも、その材料がまるでない。

 だからここでパパが「糸島に行きたい」といった理由もわからなければ、退院後に行かなかった理由もわからない。じいじとばあばが何の連絡もせずにやってきた理由もわからないし、インターホン越しにじいじの顔を見たパパが胃を押さえてる理由もわからない。

 もはや、何がわかれば「わかった」となるのかすらわからない。

 脳内補完の話でいえば、こんなのは多数決みたいなもんですからね。全部が全部説明しろって話じゃないんです。

 例えば映画『セブン』(95)のラストで箱の中に何が入っていたのか、それはわかるじゃん。『猿の惑星』(68)で自由の女神が映し出されたとき、テイラー大佐が何に絶望したのか、それはわかるんだよ。じゃあ『2001年宇宙の旅』(68)の「モノリス」についてちゃんと解釈して説明してみろって言われたら、それはけっこうムズいじゃん。

 わからないことが問題なんじゃなく、わからないことがおもしろさにつながってないことが問題なんです。本来、わからないっておもしろいことのはずなんだよ。

「パパ糸島に行きたいって言ってたのに、行ってないんだ。そんな展開がくるとは! おもしろい!」

 って、誰も思ってないだろこれ。それが問題だと言っている。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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