インドのマスメディアがモディ政権に賛同する一方、NDTVだけが独自の立場を貫き、冷静に対応するよう呼びかける。地方での失業対策がなされていないことや電力の普及が進んでいないことを取り上げれば、視聴者たちの怒りを買い、NDTVの看板キャスターであるラヴィシュの携帯電話には「愛国心がないのか」「お前はパキスタンの愛人だ」などの嫌がらせや殺人予告が相次ぐことになる。
伴野「日本のテレビを観ていると、娯楽番組や情報番組、賑やかなCMなどに目がいきがちですが、この作品はメディア本来の意義について考えさせます。メディアの重要な役割のひとつには「権力の監視」があります。世界でいま何が起きているのかを解説するために、各テレビ局は解説委員を置き、ニュースを正しく伝え、状況を検証することで言論の自由を体現してきました。そのためには、きちんと取材する必要がありますが、当然ながらお金も手間もかかりますし、クレームも来る。それならばと手っ取り早くお金儲けに走った結果が、いまの日本のマスメディアの現状のように思えます。まさにインドのテレビ局と同じ状況で、日本のメディア関係者は耳が痛くなる内容でしょうね」
フェイクニュースが真実になってしまう恐怖
日本でも戦前戦中の新聞や雑誌は、国威発揚に努め、ナショナリズムを煽った。政権や軍部に強要されただけではなく、日本の強さを謳うことで売れ行きが伸びたからでもあったろう。2003年の米軍によるイラク侵攻も、米国のほとんどのマスメディアが当時のブッシュ政権を後押しした。ナショナリズムには大衆の感情を掻き立て、権力者の人気を高める効能がある。
伴野「インドはヒンドゥー教徒が全体の80%を占め、イスラム教徒は14%程度だと言われています。かつてのインドは多様性を認めた寛容な社会だったはずですが、モディ政権になってからはナショナリズムを煽り、少数派であるイスラム教徒に圧力を掛けるようになりました。カシミール地方は、パキスタンと国境問題を争っている最前線です。政権は明確な敵をつくったほうがより高い支持を集めることができるため、マスメディアをうまく利用していて、メディア側もモディ政権の人気に乗っかっている。