<配信ドキュメンタリーで巡る裏アジアツアー> 第四回

 インドの人口は14億4000万人を超え、今や世界最大の人口国となっている。GDP(国内総生産)は世界第5位だが、近年中に日本とドイツを抜いて、米国・中国に次ぐ経済大国になると目されている。そんな急成長を遂げているインドを牽引しているのが、ナレンドラ・モディ首相だ。貧しいチャイ売りから現在の地位にまで昇りつめた人物で、国民から絶大な支持を得ている。

 だが、インドのマスメディアがモディ政権をどのように報道しているのかを、日本で知る機会は限られている。ドキュメンタリー作品『あなたが見ている限り真実は生き残る』(2022年制作)は、インドで公正な報道を続けようと奮闘するテレビ局「NDTV」のニュースキャスター、ラヴィシュ・クマールを追った注目すべき作品だ。政権に忖度することなくニュースを伝えるものの、視聴者からのクレームが殺到し、スポンサーが離れていくなど、厳しい調査報道の現実が描かれている。

 インドのメディア事情について、アジア各国のドキュメンタリー作品を配信している映像配信サイト「アジアンドキュメンタリーズ」の代表・伴野智氏に話をうかがった。

伴野「NDTVの正式名称はニューデリー・テレビジョンと言い、インドのCNNみたいなニュース専門のテレビ局です。1984年に設立され、24時間ずっとニュースを流していました。もともとインドは国営放送しかなかったのですが、ニュースの制作会社だったNDTVが独立し、政権や大企業に支配されない報道を標榜した、インド唯一の独立系テレビ局としてスタートしました」

キャスターの携帯電話に届く脅迫メッセージ

 モディ首相は、グジャラート州首相時代に太陽光発電や道路などのインフラ整備で国内外の企業の誘致に成功し、強いリーダーシップで政権の座に就いた。だが、次第にインド国内でのナショナリズムを煽ることで、権力をより強固なものにしていく。2019年2月、カシミール地方で自爆テロ事件が起き、インドの治安部隊40名が亡くなった。インドのメディアは一斉に報復を叫び、隣国パキスタンへの攻撃を主張。モディ政権はこのメディア熱に便乗するように、インド軍によるパキスタンへの空爆に踏みきる。人気が下降気味だったモディ政権は、これで支持率を回復させることになった。