こんにちは。LAXIC編集部の小山佐知子です。
私が編集長になり早半年。不思議なことに、ここ数ヶ月、働く母親たちからキャリア相談を受ける機会が増えました。

中でも、このところ、“あるワード” を聞く機会がぐんと増えまして。
そのワードこそ、今回のコラムのテーマである「プロボノ」です。

「小山さん、私、 “プロボノ” に興味があるんです。でも、正直不安も大きくて…。」

9月半ば。オンライン会議のモニター越しにそうつぶやいていたのはメーカーに勤務する3歳女児のママYさん。第二子妊娠中で、育休とその先の職場復帰を見据え、自身のキャリアを今一度見つめ直しているところでした。嬉しいことに、私が復業で立ち上げ運営している団体にも興味を持っていて相談に来てくれたのでした。

復業の解禁、コロナ禍、二人目の妊娠

これからの働き方を模索する中で知った「プロボノ」という選択肢

<プロボノとは?>

みなさんは「プロボノ」という言葉をご存じですか? 「社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かしたボランティア活動」のこと、というのがストレートな説明なのですが……ちょっとピンと来ないという方もいらっしゃるかもしれませんね。また、 “プロ”と付いているので「プロフェッショナルの仕事?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

語源は公共善のためにという意味の「Pro Bono Publico」というラテン語。 “プロ”は「~のために」という意味でプロフェッショナルの意ではありません。 とはいえ、「仕事で培った経験や専門的なスキルを生かす活動」なんて聞くと、「自分には専門性と呼べるスキルなんてないし、難しいかな」と尻込みしてしまうかもしれません。実際に、冒頭でご紹介したYさんがそうでした。

では、実際のところはどうなのでしょうか? 日本でいち早くプロボノを普及させる活動に取り組んできた認定NPO法人サービスグラントの津田詩織さんにお聞きしたところ、以下のように教えてくださいました。

プロボノは、普段の仕事の経験やスキルを生かせる場でもあります。社会人としてこれまで身に着けて来られたことを、ぜひ社会のためにも活用していただきたいと思います。さまざまな社会課題の解決を目的に活動してる非営利組織では、その多くが資金面、人材面で不足を抱えています。そのため、誰かの役にたちたいという気持ちや、ヒアリングから課題を明らかにしたり、計画を立てて実行をするといったポータブルスキルを歓迎しています。

<本業以外のもう一つの顔>

LAXICでも度々ご紹介してきましたが、ここ数年、複数の軸足を持つ「パラレルキャリア」が注目されています。終身雇用や年功序列も過去の働き方になりつつあり、また、コロナ禍でリモート中心の働き方にシフトした人が多かったことからも、自身のライフ&キャリアについてこれまで以上に考えるようになったのではないでしょうか。

私が働く女性のキャリア相談を受けている中で感じるのは、Yさんのような、キャリア形成の一環として プロボノをしたい人の増加です。

Yさんは、「新卒から10年働いてきたので一つの節目。今すぐ転職したいわけではないけれど、会社の外で通用する経験やスキルを身につけておきたい」と想いを口にしていました。副業が条件付きで解禁になったことも行動の後押しになったようで、育休期間中を活動に充てたいとのことでした。  

プロボノを通して、自分の好きなことや強みがどんどん明確に

Yさんの話で思い出したのが、6月にインタビュー(※1)させていただいた育休コミュニティMIRAIS代表の栗林さんの言葉。「育休は貴重な休業時間だからこそ、『なんとなく』過ごすのではなく、自分を見直す時間にしてみましょう」と、栗林さんからは、自分が本当にやりたいこと(=テーマ)の重要性を教えてもらいました。

離職や育休など、キャリアを一旦中断するのってなんだか怖いですよね。見えない不安があって。でもこの時間がとても大事なんです。節目こそしっかりと自分を振り返りキャリアデザインをしてみましょう。

このように話してくださったのは、株式会社フライヤー 新規事業担当執行役員の久保彩さんです。久保さんは、第一子出産後、パートナーの海外赴任に帯同するため前職を退職しシンガポールへ渡り、育児を行う側らMBAを取得した経験の持ち主です。華やかなご経歴の久保さんですが、帯同中は完全に仕事と切り離された生活でアイデンティティクライシスに陥ったのだとか。

今回、このお話を伺う機会になったのが、先にご紹介した認定NPO法人サービスグラントと、LAXICでも何度かご紹介している駐妻キャリア支援団体「CAREER MARK」の合同イベント『プロボノ&ママボノ勉強会(※2)』でした。

「ママボノ」とは、サービスグラントが2013年に開始したママ向けの期間限定プログラム(※3)で、育休中や離職中の子育て女性たちが社会貢献活動を通して仕事復帰に向けたウォーミングアップを行えるもの。久保さんも、2018年にママボノに参加されました。

MBAもプロボノ(ママボノ)も、一方通行の学びではなくて、インプットとアウトプットがセットになっているのがいいですね。ママボノは2ヶ月間という限られた期間で支援先の団体様の課題解決に向けてチームで動いていくのですが、実践を通してスキルが磨かれます。ママボノを通して自分の強みや好きなことが明確になりました。

ママボノでは、前職で未経験だったプロジェクトリーダーにチャレンジされた久保さん。第二子の育休を活用し得た経験がのちにスタートアップの執行役員への転身につながったそうです。

最初は自分が持っているスキルや知識がどれくらい支援先の役に立つか分かりませんでしたが、プロジェクトの終盤、成果物が評価され嬉しかったです。「自分でも社会貢献できるんだ」「何かを生み出すことができるんだ」と自信につながりました。異なるバックグラウンドの人と一緒にプロジェクト遂行できたのも貴重な経験でしたし、マネジメントやリーダーシップを学ぶ場にもなりました。

女性は妊娠・出産(や場合によっては私のような不妊治療の経験も)がキャリアの節目になりやすいもの。与えられた時間、環境を活用してみることでその節目をキャリアの飛躍につなげることができるのですね。

なお、『プロボノ&ママボノ勉強会』の詳細は、イベント主催者CAREER MARKリポート部によるイベントレポート(※4)にて公開しています。

在宅でできるプロボノも続々

幅広い層・世代に浸透する、新しい働き方

サービスグラントが7月に行った調査(※5)によると、プロボノに参加を希望した47人のうち、約半数が新型コロナの影響を動機に挙げたそうです。冒頭にご紹介したワーママのYさんも、まさにコロナ禍のステイホームが今後のキャリアを考えるきっかけになったと話していましたが、この調査でも、コロナをきっかけに「社会課題に関わりたい」「スキルやキャリアを見直したい」と考えた人がそれぞれ6割を占めたそうです。

また、オンラインで支援を求める団体が増え、プロボノの活動形態も従来多かった対面型からオンラインへと多様化し、時間や場所がネックになっていたママ層は参加しやすくなりました。先ほどご紹介した「ママボノ」も、2020年度の活動は主にオンラインで実施されるそうです(募集はすでに締切)し、私が主宰する団体のプロボノも初期から基本オンラインでの活動が中心です。パパ・ママメンバーが多いので、定例のミーティングはそれぞれ子どもの寝かしつけを終えた21時過ぎから行うことが多いです。日中は本業を最優先にしつつ、コミュニケーションツールのSlackを使ってやりとりしているので特にリモート運営でやりにくさを感じることもありません。

忙しい中、あえてプロボノをやる理由。それは「持っているスキルを生かして社会貢献したい」という想いとキャリア構築、そして仲間づくりなのだとつくづく感じます。キャリアにモヤモヤしている方にはぜひいちどプロボノに挑戦してみて欲しいです。自分の強みはなかなか自分では分からないもの。だからこそ、「ビジネスとしてやっていることをアレンジすると、会社以外の場でこんな風に生かせるんだ!」と気づくことで自信を持って前に進むきっかけになると思います。

提供・LAXIC

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