近年は、「セクシュアルマイノリティについて身近な問題として考える」という意識が随分広がりました。性的指向や性自認をめぐるハラスメント「SOGIハラ(Sexual orientation and gender identity・性的指向及び性自認についてのハラスメント)」という言葉も生まれています。多様な生き方を認め合っていくために、LGBTへの理解が必要です。そのようなときは、物語の助けを借りてみてはいかがでしょう?そこで今回は、LGBTが登場する実話をもとにした映画を3つ紹介します。

『パレードへようこそ』

(2015年日本公開、監督:マシュー・ウォーチャス)

サッチャー政権下のイギリスで起きた実話がもとになった物語。1984年、ロンドンに住む青年マークは、ストライキ中の炭坑労働者たちを支援する募金活動を仲間たちと始めました。しかし、全国炭坑組合に何度電話しても、マークたちの寄付の申し出は受け入れられず。なぜなら、彼らがゲイだったから。その申し出に応える唯一の炭坑が現れたのだが……。

コメディ仕立ての本作は、第72回ゴールデン・グローブ賞作品賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされた通り、クスッと笑えるシーンが満載。ザ・スミスやカルチャー・クラブといった80年代のブリティッシュ・サウンドの名曲も物語を盛り上げており、気軽に楽しめる娯楽作と言えるでしょう。

劇中では、偏見や無理解にもとづくいろいろな出来事が描かれていきます。しかし、炭鉱のストライキで苦境にある片田舎の労働者たちと、セクシャルマイノリティのグループとがしだいに理解し合い、協力し合っていく姿が観る者に希望を与えます。“伝説のパレード”のシーンは、楽しさと同時に胸に熱いものがこみあげてくるかもしれません……。

『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』

(2019年日本公開、監督:デイモン・カーダシス)

ニューヨークのブロンクスに暮らす青年・ユリシーズは、父親を亡くして以来、「美しくなりたい」という感情が強くなっていました。ある夜、彼はトランスジェンダーのグループに出会い、「土曜の夜の教会(サタデーナイト・チャーチ)」に誘われます。

同じ境遇の仲間と語らい、ダンスや音楽を楽しむ場として開放された空間で、学校でも家庭でも孤立していたユリシーズは、少しずつ自分を解放してゆくのです……。

デイモン・カーダシス監督は、ボランティアをしていた教会が行っていた“サタデー・チャーチ(LGBTQ当事者への支援プログラム)”での実体験と綿密なリサーチをもとに、本作を作り上げたそう。

監督にとってはこの作品が長編映画デビュー作で、ユリシーズ役で主演を務めたルカ・カインも全くの無名だったにもかかわらず、映画祭で18の賞にノミネートされ14受賞を果たすほどの高い評価を受けました。

ユリシーズが隠していたハイヒールを見つけられてしまうシーンでは、家族の困惑と怒りが描かれます。家族から理解を得ることができず、ユリシーズは家を追い出されてしまいます。

街をさまよいながらユリシーズが経験するさまざまな出来事。こうしたストーリーからトランスジェンダーである主人公の苦悩や喜び、さまざまなサポートの様子などが語られていきます。

また、この映画は音楽やダンスによるエンパワーメントやコミュニティのあり方についても考えるきっかけを与えてくれるでしょう。