今週の一冊

「ベストセラーに学ぶ最強の教養」(佐藤優著、文藝春秋、2021年)

鈴木宗男事件で連座し、逮捕・起訴された元外務省の佐藤優氏。私は氏の著作が好きでこれまでいろいろと読んできた。中でも「国家の罠」を読むと、いかに個人が無力であるかを痛感させられる。一方、「十五の夏」「埼玉県立浦和高校 人生力を伸ばす浦高の極意」などは、未来を担う若者たちが希望を抱けるような内容だ。佐藤氏の講演会にも何度か出かけたが、膨大な知識と記憶力、幅広い教養に感銘を受けた。

今回ご紹介するのは、様々なベストセラーを読み解く一冊。氏が厳選した42冊に解説が加えられている。一番古いのは1871年の「西国立志篇」、新しいのは2016年の「コンビニ人間」である。

中でも、「置かれた場所で咲きなさい」(渡辺和子著)への解説が心に響いた。著者の渡辺氏は修道女であるが、神の世界に入ったきっかけは2・26事件で父親を失ったことにあろうと佐藤氏は推論する。「置かれた場所で咲きなさい」の中で渡辺氏は、現実を受け入れ、歩んでいくことの大切さを綴っている。そのことについて佐藤氏は、「最終的に、変えられないことをいつまでも悩んでいても仕方がない」と解釈したのである。「渡辺氏は、他者の悩みを自分の悩みと同じように受け止め、解決に向けて努力するという生き方を続けている」(p142)と読み解いている。

もう一つ感銘を受けたエピソードは、ロシア語通訳者の故・米原万里さんとのひとこま。佐藤氏は保釈後しばらく人との接触を断っていたが、例外は米原さんであった。自由の身になって初めて米原邸を訪ねたとき、米原さんは黙って佐藤氏の手を握り、しばらく沈黙してからこう言ったという。

「あなたの経験を本にしたらいい。職業作家になったらいいわ。応援する」(p164)

そのあと、米原さんはがんに見舞われた。今度は佐藤氏が米原さんの手を無言で握り続けたという。「手の温もりには言葉以上に人の気持ちを伝えることができる力がある」(p164)という一文が心に響いた。

私はここ数年「親子関係」「共感」というテーマに注目している。人が苦しい時に慰め、寄り添ってくれるのが肉親、とりわけ実両親であればどれほど励まされることだろう。しかし、世の中にはそれが叶わない人もいる。でも、絶望しなくて良い。その分、自分が他者への共感力を醸成できるきっかけを得られるかもしれないし、肉親以上の心優しい友人と巡り合えたりするかもしれないのだから。


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