メタ認知能力が高ければ、自分を客観視できます。メイクアップアーティストの場合であれば、たとえばそれが雑誌のメイク特集の撮影なら、「どんな雑誌なのか」「読者は誰か」「どんなコンセプトの企画なのか」ということに始まり、「このモデルさんに自分が提案したいメイクを合わせるにはどうアレンジするか」「時間内に撮影を終わらせるにはどうすればいいか」と考えて動けるので、重宝されます。

逆にメタ認知能力が低いと、全体の中で自分に何が求められているかを把握できないので、自分の技術をアピールすることしか頭にないかもしれません。すると、自分の提案したいメイクに固執し、モデルさんの良さを引き出せずにいい写真に仕上がらなかったり、作品としての完成度にこだわりすぎて時間がかかり、予定した時間内に終わらなかったり……という事態になってしまいます。これでは次に声をかけてもらえません。

出版翻訳家の場合も、同じことが言えます。メタ認知能力が高ければ、自分の企画が出版業界においてどのような文脈で位置づけられるかを把握できますし、編集者さんと関わる際にも自分が何を求められていて、どのように対応していけばいいのかがわかります。企画書の作成段階から実際に仕事をする段階まで、すべてにおいてレベルが上がるのです。

逆にメタ認知能力が低いと、翻訳の細部にこだわるあまり締切を大幅に過ぎてしまったり、編集者さんに迷惑をかけたりしてしまうかもしれません。それ以前に、勉強をしている段階でも、その勉強を何のためにしているか把握できていないでしょうから、デビューにつながりにくいのです。

翻訳の能力は、コツコツ磨いていくしかありません。大きく伸びることはもちろんありますが、急に向上させるのは難しいものだと思います。それに対してメタ認知能力は、気づきによって一気に高めることができます。だから、出版翻訳家デビューを目指しているのにうまくいかない方は、翻訳の勉強だけでなく、メタ認知能力を磨くことを考えてみてください。「自分はどうして、何のためにこれをやっているのか」「全体の中で自分には何が求められているのか」……そんなことを日頃からほんの少し意識するだけでも、今の状況の見え方やこれからの行動が変わってくるはずですよ。

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