さて、では出版翻訳の場合はどうでしょうか。私は産業翻訳家および出版翻訳家として様々な英文を訳してきましたが、情報の伝達を主たる目的とする文章が多い産業翻訳とは異なり、思想や感情を表現するのが主たる目的とする文章が多い出版翻訳においては、比喩的な表現や現地の人でなければ分かりづらいと思われる事柄が頻繁に出てくることがあります。

これらは単に訳しにくいだけでなく、正確に訳したところで日本人の読者には分かりづらいのではないかという思いから、ついつい省略したいという気持ちが湧いてくることがあります。

では、果たして日本人読者にとって読みやすくするために省略したり付け加えたりといった“改変”は可能なのでしょうか。

答えはイエスでもありノーでもあります。つまり、ある場合には“改変”が可能であり、別の場合には“改変”は不可ということです。それについて説明しましょう。

著作権の保護期間が切れている作品の場合は“改変”が可能です。著作物には保護期間がありますが、保護期間が切れている場合は比較的自由に著作物を利用できます。したがって日本人読者にとって読みやすくしようという意図で、あまり重要でない箇所を一部削って訳すということも可能です(もっとも比較的自由に“改変”できるといっても、どんな“改変”でもできるというわけではなく、意図的に原著者を侮辱するような“改変”は御法度です)。

一方で、保護期間が切れていない作品の場合は、“勝手な改変”は不可です。これは同一性保持権(改変を受けない権利)が原著者にあるからです。ですから原著者の許諾なしには改変はできません。

もしどうしても改変が必要だと判断した場合は、事前に原著者にコンタクトを取り、どの箇所をどういう理由で削除するかなど説明した上で許諾を取るようにしましょう。几帳面に一言一句原文に忠実に訳すと日本語として読みにくくなる場合があり、編集者に「もっと日本語として読みやすくなるように大胆に訳してください」と言われることがありますが、日本語として読みやすくするためとはいっても“勝手に削除”することはできませんので注意しましょう。

一方、日本人の読者にとって理解を促進するために補足説明をつけたいと思うのであれば、訳注という形で補足説明をし、読者の理解を促進するといいでしょう。

今回は、翻訳をする際、原文をどの程度“改変”できるかを考えてみました。訳文を推敲する際のヒントにしていただければ幸いです。


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