文春オンライン(03/18)で事件のあらましを見てみよう。

《発見したのは、夏の潮風を浴びながら早朝のランニングに勤しんでいた地域の住民だった。美しい砂浜に2人の男性が仰向けの状態で倒れ、寄せては返す波に打たれていた。
2020年8月1日午前5時半頃、和歌山県有田郡広川町の樫長海岸。波打ち際で並ぶように絶命していたのは、会社員の寺本浩平さん(当時66)とアルバイトの米田一郎さん(当時51)だった。
「ともに服を着たまま、寺本さんの左手首と米田さんの右手首がマイクコードで繋がれていた。司法解剖の結果、死因は溺死。2人の体内からは鎮痛剤成分が検出された」(捜査関係者)
2日後の8月3日、和歌山県警に提出された寺本さん名義の遺書には、こんな言葉が綴られていた。
〈一郎さんと旅立つ私をどうぞお許しください〉
〈コロナ不況で全く仕事が取れなくなり、私の夢は打ち砕かれました〉
文字が印刷された用紙の文末に、手書きされた2020年7月30日の日付と寺本さんの名前があった。
「当時、和歌山県警は『事件性は低い』と判断。自殺として処理した」(同前)》

 男同士の無理心中。遺書もあり、和歌山県警の判断は致し方なかったのかもしれない。

 だが、2人の死は入水自殺に擬装された“事件”だったのだ。

《4年半余りの歳月が流れた今年3月11日。大阪府警は、“創造主”を自称する大阪府河内長野市の占い師・濱田淑恵(よしえ・62)、信者の滝谷奈織(なぽり・59)、寺﨑佐和子(47)の3容疑者を逮捕した。それぞれの容疑は、濱田と滝谷が寺本さんと米田さんに対する自殺教唆、濱田と寺﨑が寺本さんの遺書を偽造した有印私文書偽造・同行使。
「寺本さんと米田さんも濱田を“創造主”と信じ込まされ、支配下に置かれている状態だった。2人が入水自殺させられた日、現場には濱田と滝谷も同行していた。濱田に指示され、マイクコードで寺本さんらの手首を繋いだのが滝谷。その2日後、同じく濱田の指示で寺本さんの遺書を偽造したのが寺﨑だった」(同前)
濱田たちは、河内長野市を拠点に、信者名義の複数の住処を使い分けつつ、共同生活を送っていた。
「濱田、滝谷、寺﨑、もう1人の女性信者A子、寺本さんと米田さん。この男女6人のうち、寺本さんは滝谷、A子と結婚、離婚歴があったとされます。婚姻関係を差配していたのは濱田。滝谷は元夫を自殺に追い込んだことになります。また、寺本さんは以前、別の元女性信者とも婚姻関係にあったようです」
濱田を頂点とする狂信的な男女は、信者間で結婚と離婚を繰り返す“乱婚サークル”でもあったのだ。》