摩天楼が立ち並ぶマンハッタンとは違い、ブロンクスは低所得者層が多く住む地区だ。ホームレスも街中に多く見られるが、ネズミを食べるホームレスが確認されたことは、地元住民にも記憶がない。「ここまで来てしまったのか」とつぶやくブルックリン住民もいる。

 ただネズミは、ブロンクスに限らず、ニューヨークに「充満」している。ニューヨークの害獣駆除会社、M&Mペスト・コントロールによると、ニューヨーク市内のネズミの数は約300万匹にのぼる。ネズミの正確な数をつかむことは不可能だが、統計学を使って野生動物の生息数を弾き出す方法と同じやり方で計算すると、この数字になるという。

 ニューヨークの人口は約850万人。その3分の1の規模に相当するネズミ。2010年には約200匹だったとされ、15年ほどで100万匹増えたことになる。

 ニューヨークにいると、地下鉄の線路の間を走り、線路脇の水たまりで水を飲むネズミの姿をよく見かける。街を歩いていると、歩道で目の前をネズミが横ぎることもしばしばだ。季節関係なく目にするが、やはり夏場は活発で、人の気配も気にせずに集団でごみをあさる。

 不衛生極まりないが、慣れっこになった市民の中には、ネズミをニューヨークの象徴的な存在として親しみを込めて「接触」する人々もいる。

 ネズミが自分の体より大きいピザ1切れをくわえて、地下鉄の階段を必死に降りてゆく姿が2015年9月にソーシャルメディアでアップされると注目を集め、「ピザ・ラット」と呼ばれて人気者になった。

専門官を新たに設置 「戦争」優位に

 しかし、病原菌をまき散らすネズミは社会全体で増殖を阻止しなければならない。ニューヨーク市はネズミ対策を「ネズミとの戦争」と位置づけて取り組んできた。ネズミ対策の専門官の役職を2023年4月に新たに設置。またボランティア組織を結成して駆除を強化した。

 さらにエサとなる残飯にネズミがたどり着かないようにするため、2023年11月から、一戸建てや小規模アパートでのゴミ出しを、袋ではなくゴミ容器にすることを義務付けた。収集車が来る前にゴミを道路に置く時間も、これまでの午後4時からでなく午後8時からと変更した。