つい「食べり」と言ってしまうほど結さんのアイデンティティが糸島にあるとは思えないし、最愛の家族である翔也や花ちゃんに何か食事を作って「食べり」と言ったシーンも記憶にない。
そういう人が患者に対して「食べり」を繰り出すたびに、何か取ってつけたような身勝手さといいますか、画面のこちら側に対する目配せといいますか、とにかく100%患者のためを思って言ってねーなという印象を与えているわけです。
詩ちゃんというキャラクターの作り込み
マキちゃんにそっくりの女の子として登場した詩ちゃん。この女の子の作り込みも甘かったなぁ。
生きてる意味がない、死にたいと思って食事を拒否していた子が、食事をとるようになって回復する。
食事をとるようになった理由は、アユ(仲里依紗)がいっぱいプレゼントをくれたことと、結さんが凍ったブドウを出したことでした。詩ちゃんは藤沢の出身で、ブドウは藤沢の名産なんだそうです。
詩ちゃんがなぜ希死念慮に囚われるようになったのか、結局『おむすび』は具体的なエピソードを示しませんでした。ただ、結さんとアユに優しくされたから生きる希望を取り戻した、として片付けている。
これ、すごく残酷なことをやってると思うんだよな。
詩ちゃんは8歳のときに両親を事故で亡くしていて、以降、中学卒業まで施設で暮らした。中卒でスーパーに就職しても馴染めず、さまようように先輩を訪ねて大阪に来た。そこでスマホと財布を盗まれ、病院に運ばれてきたら死にたいと言っている。
この子がなぜ、そう思うようになったのか。それを掘り下げて、その問題に結さんなり(『おむすび』なり)のアプローチがあって食べるようになったなら話はわかるんですが、ここに具体的な闇堕ちのきっかけが設定されていない。
作り手側が、具体的なきっかけを設定しなくても視聴者が納得すると思っているということです。
8歳で両親を亡くして施設で育って就職先のスーパーでも馴染めなかったら、闇堕ちして当然だろう、そんな奴は当たり前に死にたくなるもんだろう、見てる側だってそこに疑問は抱かないだろう、そう思ってるということです。