夫は、自分が何もできないのがもどかしかったのだろう。「この年末年始は帰省する」と言い出した。

「ああ……と思いました。夫は何もわかっていないと」

夫には絶対理解できない――負担は減るどころか、むしろ増えるだけ

 わかっていない――年末年始に、たとえ兄とはいえ、いや兄だから、帰ってくるとその間義妹の仕事が倍増することが。

「夫としては、実家に帰って何かしら手伝うことで、義妹の介護負担を少しでも減らせると思っているのでしょうが、女の目から見ると、負担が減るどころか、どれだけ増えるか……昔の家なので、お客さん用の布団などは2階に置いてあるのですが、介護で疲れ果てている義妹は2階まで布団を取りに行く気力も体力もなくなっているんでしょう。ずっと前から、夫が帰省したときは貸し布団を使っていると聞いて、義妹の心身の負担が手に取るようにわかりました。使った後の布団を干して片づけるのも重労働ですから。貸し布団を使ったって、シーツは出さないといけないし、洗って干さないといけないのは変わらないのです」

 夫は「年末年始くらい実家に帰って何が悪い」としか思っていないだろう。茂木さんが義妹の気持ちを代弁しても、「親に会いに行くのに気兼ねしないといけないのか」と反論するのが目に見えている。

 女の大変さが、夫には絶対理解できないと思う。へたに説得しても反発するだけだ。「帰省して親孝行をするなんて、夫の自己満足に過ぎない」なんて言ったら、きっとキレるだろう……。

 夫とはわかり合えない。大きな溝を感じるのは、こんなときだ。定年後の夫婦の危機もこんなところからきているのかもしれないとさえ思う。

 だから、夫の帰省をやめさせることは諦めている。義妹には申し訳ないが、どうしようもない。義妹の負担を思い、「ああ……」とため息をつくばかりだ。

災害時ボランティアだと思え

 茂木さんの話を聞いて、都内に住む男性から聞いた言葉を思い出した。その男性も60代。実家は中国地方にあり、兄が要介護3の母親と同居。結婚した妹も近くに住んでいるので、男性は「ほとんど役に立っていない」と自認する。