2021年の『どうする家康』制作発表時には、〈豊臣秀吉、黒田官兵衛、真田昌幸、石田三成と次々と現れる強者たちと対峙し、死ぬか生きるか大ピンチをいくつも乗り越えていく〉物語であるという説明がなされていたのに、現在では公式サイトのドラマ概要から「黒田官兵衛」の名前だけが消去されてしまっています。一部メディアではドラマの説明の定型文として今もそのまま黒田官兵衛の名前が残っているところもあり、この点が気になっている読者も多いのではないでしょうか。
戦国時代を扱った創作物の中では、ムードメーカーの秀吉とその「軍師」の官兵衛はいいコンビとして描かれることが多い印象です。また「家康がもっとも恐れた男」ランキングが作られるならば、真田信繁に並んで官兵衛の名前が上位に入るのが一般的でしょう。しかし、『どうする家康』では、官兵衛の息子・黒田長政のキャスト発表はされているものの(阿部進之介さん)、肝心の官兵衛については発表がなく、現時点でドラマには出てきていません。
官兵衛といえば、本能寺の変の際、中国地方で戦を行っていた秀吉が「上様(信長)、本能寺にてお討ち死に」という知らせを聞いて転げ回って泣きわめいたところ、官兵衛だけは秀吉が本心で悲しんでいるのではなく演技だと見抜き、「ご運が開けてきましたな」と秀吉の耳元で発言した……という少々怖い逸話もあります。官兵衛の不在のためか、『どうする家康』ではこの名場面自体が存在しませんでした。なにかにつけて芝居がかった今回の秀吉にはぴったりな逸話ですし、だからこそ官兵衛のようにクールでダークなキャラの人物がそばに付いていてほしかったのですが……。『どうする家康』に秀吉の名参謀である黒田官兵衛が出てこないのは、このドラマの秀吉のキャラに、冷徹な官兵衛の要素まで含まれているからだと思われます。キャラが被る人物が「リストラ」されるのは、視聴者にドラマの内容をわかりやすくするための工夫であり、仕方ない話なのかもしれません。
『どうする家康』に登場しないという点では、史実の家康にとって本当に頼れる年上の家臣であった本多重次(作左衛門)の不在も残念に感じました。