つい先日まで普通に接していた親戚から突然、縁を切られる……相続で揉めると本当にそんなことが起こります。

今回のテーマは「都会の真ん中で起きた“争続”できょうだいの縁が切れた話」です。

仲良しきょうだい、祖父の遺産相続を放棄

絵美さん(仮名)の母方の祖父母はJR飯田橋駅からほど近い神田川沿いに住んでいました。祖父母には男子2人、女子5人の計7人の子供がいましたが、同居していたのは長男夫婦のみ。ほかの子供たちは実家を出てそれぞれ家庭を持っていました。

ある日、祖父が84歳の時に亡くなり相続が発生することになりました。法定相続人は祖母と7人の子供たちでしたが、この時、同居していなかった長男以外のきょうだいは「長男夫婦が今後、祖母の面倒を見てくれるだろうから」と、相続放棄しました。

こうして祖父の遺産相続は滞りなく終わった……かのように思われました。

祖母が亡くなり問題発生

問題は祖母が亡くなった時に起こりました。祖母の遺産相続の手続きをする時、長男は当然のように自分たちの相続額を多くし、ほかのきょうだいにはほんのわずかな金額しか提示しなかったのです。

これに対し、ほかのきょうだいが法定相続分を主張。弁護士も介入する“争族”に発展してしまいました。

祖母の入院中、ほとんど面倒を見なかった長男の妻

なぜ、祖父の遺産を放棄したきょうだいたちが祖母の遺産に対しては法定相続分を主張したのでしょうか。その発端は祖母が生前、具合が悪くなり入院した時にありました。

祖母が入院する時、長男の妻はほかのきょうだいたちに「みんなで祖母の面倒を見てほしい」と言ったので、ほかのきょうだいたちはシフトを作り、順番に病院へ付き添いました。しかし、入院期間中、長男の妻はほとんど病院に顔を出すことがなかったのです。

祖母の遺産相続はかなり揉めましたが、結局、長男を除くそのほかきょうだいたちに法定相続分に近い金額を分けることになりました。

絵美さんがその頃、祖父母の家だった母の実家を訪れると、相続以前まで普通に接していたはずの伯母(長男の妻)の対応が、異様に冷たかったことは今でも忘れられません。そして相続手続き後、「二度とこの家の敷居をまたがないで」と言われました。

それから数年して絵美さんの母や、長男夫婦にとっては妹である叔母が亡くなった時も、長男夫婦からの連絡はありませんでした……。

“争続“は何が一番の問題?

絵美さんの祖父や祖母の具合が悪かった時、長男の妻が献身的に、とまでは言わなくてもそれなりに看病や病院の付き添いをやっていれば他のきょうだいたちの不満は出なかったと思います。一方、きょうだいたちが代わるがわる自分たちの親の面倒をみる、これも当然です。

問題はきょうだい間のコミュニケーション不足です。長男夫婦(特に妻)は「家での世話を散々やってきたのだから、入院したら他のきょうだいたちが面倒を見るのが当然」と思っていましたし、他のきょうだいたちは「最後まで世話をしなかったのに、長男だけが遺産のほとんどを相続するなんて、とんでもない」と考え、争続となってしまったのです。

また、長男も「自分だけ」なら他のきょうだいたちに相続放棄をさせようとはしなかったのではないか、と筆者は感じました。相続にはパートナーが絡むがゆえに、お金に対する執着が大きくなることが多々あります。「自分の家族は仲良しだから大丈夫」というわけにはいかないのが相続の怖いところなのです。

“争続”を防ぐには?

このような争いを防ぐためには普段からきょうだい間でコミュニケーションを取っておくことが大事です。特に今回のような場合、法定相続人となるきょうだいだけで話をするのではなく、長男の妻ともしっかり気持ちのやり取りをして、禍根が残りにくくするようにすることが必要ですね。

みなさんも相続にかかわる人たちと日頃から気持ちのやり取りをするようにし、いざという時、争いのない幸せな相続を迎える準備をしておきましょう。

文・矢澤理惠(ファイナンシャル・プランナー)

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