「相続税なんて自分にはあまり関係のないこと」と思っていませんか。
筆者はファイナンシャル・プランナーとして相続対策について多くのご相談をいただいていますが、相続ほど問題が複雑になりがちな「お金の問題」もないのではないかと思います。
これから現実にあった「相続トラブル」を紹介しますので、皆さんには相続対策がいかに大切か少しでもご理解いただけたらと思います。今回のテーマは「田舎の謎の風習のために相続税を6,000万円も支払わなければいけなくなった話」です。
嫁いで1年後に義祖父が亡くなった
話は今から23年前、1995年の横浜市内でのことです。八重子さん(仮名)が結婚して1年がたった頃、嫁ぎ先の義祖父が亡くなり、相続が発生することになりました。
八重子さんの義父は農家の長男で5人兄弟の一番上。他の兄弟たちはそれぞれ農業ではない勤め先を持ち家庭を築いていましたが、やはり相続となると土地やお金を分けろ、と要求してきます。八重子さんの義父は、遺された土地を分けたり、土地の上に住宅を建てたりして、なんとか遺産を分割しました。
「長男が兄弟たち全員の相続税を払う」風習
ここまでは特に問題はなかったのですが、八重子さんが何より信じられなかったのは、「本家たる長男が兄弟たち全員の相続税を払う」という習わしがあったことです。相続税は相続した当人が払うのが大原則です。なぜ、長男が払わなくてはいけないのか……。聞いても「とにかく、この地域では今までそうだったから」と言われるだけでした。
相続税は被相続人(今回は義祖父)の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内に払わなければいけません。相続税は兄弟5人分合わせて約6,000万円。義祖父の生命保険もはるか昔に契約が終了していたので死亡保険金もありませんでした。
義父の年収はというと、農作物を出荷しても100万円程度。不動産収入があったとはいえ当然、10ヵ月で6,000万円を準備することは困難です。ひとまず土地を担保に農協からお金を借りて相続税を納付し、約半年後に保有していた土地の一区画を切り売りして返済しました。しかし、その利息もばかになりませんでした。
相続対策で大事なこと
今回の話のようにおかしな風習があるのはまれなケースかもしれませんが、このような「トンデモ話」が飛び出すのも相続の魔力とでも言いましょうか。
ファイナンシャル・プランナーとして筆者が皆さんにお伝えしたいのは、早めに相続対策をしておきましょう、ということです。そして、できれば遺言を書き記すことを考えてほしいのです。
「うちの家族に限っては争いやトラブルにならない」と考えるのは大きな間違いです。どんなに仲の良い兄弟であったとしても、そこに配偶者やパートナーがおり、お金や土地が絡むと、金額の多寡にかかわらず人は少しでも多くもらいたいと思ってしまうのです。
揉めない遺言をつくる「付言」とは?
遺言に付言(ふげん)を追記するのも気持ちが伝わりやすい方法です。付言とは、「なぜこうしたのか」といった理由などの気持ちを書いて残すことです。遺言のように法的な効力があるわけではありませんが、親族にとっては「故人はそんな風に考えていたのか」と遺言に込められた思いを知ることができ、遺言の内容に納得しやすくなります。
そして、一番大切なのは日ごろから家族でコミュニケーションを取り、万が一の時にはそれぞれがどうしたいのかを話しあって、みんなが幸せになれる方策を前もって準備しておくことなのです。そのために、みなさんが元気でいろいろなことが考えられるうちに行動していくことがとても大切です。
文・矢澤 理惠(ファイナンシャル・プランナー)
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