確定拠出年金の税制メリット③:受取時の「退職所得控除」「公的年金等控除」
確定拠出年金は、将来、積み立てたお金を受け取る時にも税の優遇があります。ただし、受取時の税制メリットについては、おトクさだけでなく、注意点があります。詳しく説明していきましょう。
確定拠出年金の受け取り方法には、「一時金形式」と「年金形式」の2パターンがあります。一時金で受け取る場合は「退職所得控除」、年金で受け取る場合は「公的年金等控除」の対象となります。
【退職所得控除(たいしょくしょとくこうじょ)とは?】
退職金を一時金で受け取る際に使える税制優遇のこと。退職金には所得税と住民税がかかりますが、全額が対象になるわけではなく 「(退職金−勤続年数に応じた金額)×1/2」 が対象となります。この、「退職金−勤続年数に応じた金額)×1/2」で求められる金額が「退職所得控除」となります。
【公的年金等控除(こうてきねんきんとうこうじょ)とは?】
国民年金や厚生年金などの公的年金を受け取る時に使える税制優遇のこと。公的年金には所得税と住民税がかかりますが、この時も全額にかかるのではなく、年齢や年金額に合わせて課税金額を少なくすることができます。この計算式は少しややこしいのでここでは割愛しますが、この時、差し引かれる金額が「公的年金等控除」です。
実際のシミュレーションについては、こちらの記事よりおトクになる確定拠出年金の受け取り方を参考にしてみてください。
退職金と確定拠出年金を同時に受け取らないように注意した方が良いワケ
「一時金形式」「年金形式」いずれの場合も、受取時の課税額を抑えてくれるおトクな税制を利用できることはご理解いただけたかと思います。
ただし、退職所得控除も公的年金控除も、確定拠出年金だけで枠を使えるのではなく、退職金や公的年金と同じ枠で合算して計算しなくてはいけない点が要注意なのです。少し下手をすると、「退職金・公的年金」の受け取りと「確定拠出年金」の受け取りが重なると、課税金額が増えてしまう可能性もあります。
例えば、確定拠出年金(20年加入)の資産500万円を60歳で一時金で受け取ると、
- 退職所得控除:勤続年数20年 20年×40万円=800万円
- 退職所得:{500万円-800万円(退職所得控除)}×1/2=▲150万円
- 税額:0円 ちなみに確定拠出年金がなく、退職金(30年勤続1500万円)を一時金で受け取った場合は、
- 退職所得控除:勤続年数30年 20年×40万円+10年×70万円=1500万円
- 退職所得:{1500万円(退職金)-1500万円(退職所得控除)}×1/2=0万円
税額:0円 となりこちらも税金がかかりません。
ところが、勤続年数30年の人が60歳の退職時に退職金を受け取り、同じ年に確定拠出年金を一時金で受け取ったとします。複数の退職金を受け取ったときの退職所得控除は、年数が長いほうの勤続期間(加入期間)で計算されることになります。
- 退職所得控除: 20年(勤続年数)×40万円+10年(勤続年数)×70万円=1500万円
- 退職所得:{1500万円(退職金)+500万円(確定拠出年金)}-1500万円(退職所得控除)×1/2=250万円
税額:所得税15.25万円、住民税25万円(復興所得税は考慮せず) このように一気に税金がかかってしまいます。では、確定拠出年金を一時金で受け取る年を翌年にずらせばよいかというと、そうとも言い切れません。
実は、退職所得控除を計算する際、「確定拠出年金を受け取る以前14年以内に退職一時金を受け取っている場合、加入期間が重複している年数を差し引く」というルールがあるのです。
上に挙げたケースでは、重複期間20年がまるまる差し引かれて加入期間が0年となるため、500万円から控除できる退職所得控除額は0円ということに……。
つまり、確定拠出年金の受け取りを次の年にずらし、退職金に対する税金が0円になったとしても、一時金として受け取った確定拠出年金の課税分(250万円)に対する税金はかかってしまいます。
※なお税金の計算方法については他にも細かい調整などもあるため、実際のケースではきちんと試算されることをおすすめします。
このように、「確定拠出年金の一時金」と「退職金」の合計金額が退職所得控除額の範囲を超える場合、確定拠出年金を年金形式で受け取ることを、一つの方法として考えてもよいかもしれません。
ただし!! 税金の計算にはさまざまな要因が絡んでくるため、どちらが税制面でおトクになるのかは人によってまちまちです。どのように受け取るのがよいかは、60歳以降のライフプランに照らし合わせ、専門家と相談して慎重に決めることをおすすめします。
複雑さを差し引いてもおトクな制度!
確定拠出年金や税制の仕組みなどを細かく見ていくと、「なにやら税金の仕組みは複雑そう」と確定拠出年金への熱が冷めてしまうかもしれません。
ですが、確定拠出年金の税制メリットは、自分で老後の生活資金を準備する人に対する国からの援助といえるもの。複雑さを差し引いてもおトクな制度に間違いはなさそうです。正しく理解して、有効に活用したいものですね。
文・みらい女性倶楽部/DAILY ANDS
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