老後のためにいくら貯金しておけばいいのか、多くの人が気にしていると思います。ただ、必要な老後資金はそれぞれの家庭環境やライフイベントなどによって大きく異なります。そこで今回は、老後の生活費にいくら必要なのかをまずご紹介し、必要な老後資金を独身、共働き、そして片働きの夫婦の3パターンで考えてみます。

老後、実際にいくら必要なの?

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何歳まで生きるのか予想を立てる

老後に必要な資金を考えるには、まず自分たちが何歳まで生きるのかをある程度予想しておく必要があります。その予想を立てるのに役に立つのが、厚生労働省が発表している「簡易生命表」です。

よく「平均寿命」という言葉が使われますが、平均寿命というのは0歳の子が何歳まで生きるかを表したもので、今の大人が何歳まで生きるのかは「平均余命」を使います。「平成30年簡易生命表(2018年)」による30歳以降の平均余命を表1にまとめます。
 

表1.30歳以降の主な年齢の平均余命

(単位:年)
年齢 男性 女性
30 51.88 57.77
40 42.20 47.97
50 32.74 38.36
60 23.84 29.04
現在40歳の人の平均余命は男性で42.2年、女性で47.97年となっています。つまり、平均すると今40歳の人は男性で82.2歳まで、女性は87.97歳まで生きる計算になります。ただし、これは平均です。今の自分の健康状態や、家系的に長生きかどうかなどの要因により、目安を増減させることも必要です。

老後の生活費はいくらかかるのか

老後の生活費はいくらかかるでしょうか。2020年に総務省が発表した「2019年家計調査報告」によると、老後の生活費は以下のようになっています(表2)。
 

表2.高齢夫婦世帯の生活費の内訳(月額)
支出の項目 高齢夫婦世帯 単身世帯(65歳以上)
食費 6万6,458円 3万5,477円
住居費 1万3,625円 1万3,110円
水道・光熱費 1万9,983円 1万2,973円
家具・家事用品 1万100円 5,573円
被服費 6,065円 3,608円
医療費 1万5,759円 8,469円
交通費 1万9,251円 7,356円
通信費 9,077円 5,315円
教育・教養娯楽費 2万4,824円 1万6,155円
その他
(交際費、仕送り金、
使途不明金など)
5万4,806円 3万586円
税金・社会保険料など
非消費支出
3万982円 1万1,910円
合計 27万930円 15万532円

この表から、老後の1ヵ月の生活費は高齢夫婦で約27万円、独身であれば15万円程度であることがわかります。もちろんこれも平均ですので、持ち家か賃貸か、また都会か地方かなどの環境によって自分なりの目安を持つことが大切です。

生活費以外にかかる費用をリストアップしよう

老後にかかる費用は生活費だけではありません。持ち家に住んでいる方であればリフォームをする必要がありますし、子供の結婚式の援助を考えている夫婦もいるでしょう。また、元気なうちは2人で旅行にいきたいと考える方も多いのではないでしょうか。ここではこういったライフイベントにかかる費用の平均をご紹介します。
 

表3.ライフイベントごとの費用の目安
ライフイベント 費用 夫婦世帯 単身世帯
リフォーム 270万円 270万円 270万円
子供の結婚式の援助 167万8,000円 335万円 -
旅行(1回分) 5万8,500円 117万円
(2人分×10回)
58万5,000円
(10回)

住宅リフォーム推進協議会が2019年に発表した「住宅リフォーム潜在需要者の意識と行動に関する調査」では、戸建のリフォーム平均費用は269万円でした。次に、ゼクシィトレンド調査2019によると、親・親族からの援助の平均額は167万8,000円となっています。

子供が2人の家庭であれば、335万円ぐらいを目安に考えておきましょう。じゃらん宿泊旅行調査によると、1回の宿泊旅行に大人1人あたり5万8,500円かかっています。夫婦2人で10年間旅行したい場合、5万8,500円×2人×10年=117万程度あればいいでしょう。

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自分の老後資金を計算する方法

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老後資金の計算式

65歳時点で自分に必要な老後資金は、次の式で計算することができます。

(年間の支出ー年間の収入)×(平均余命ー65歳)+その他の必要な資金=老後資金    ・・・    ①

一般的には退職後の支出は収入より多くなります。しかし、もしこの結果がマイナスなら、まったく貯金がなくても収入だけで老後は生活できることになります。

老後の収入のメインは年金

ほとんどの人にとって、老後の収入のメインは年金になります。公的年金には日本に住む20歳以上60歳未満の人全員が加入する「国民年金」と、会社員や公務員の人などが加入する「厚生年金」の2種類がありますので、それぞれの額を見てみましょう。

まず、国民年金の保険料は定額になっていて、20歳から60歳まで欠かさず保険料を納めれば誰でも満額支給されます。2020年度の老齢基礎年金の支給額(満額)は年額78万1,700円、月額で6万5,141円です。

厚生年金から出る老齢厚生年金の支給額は、その方の加入年数や加入期間中の平均年収によって変わりますが、例えば22歳で就職、65歳で退職した会社員の人、その間の平均年収が500万円であれば、もらえる厚生年金の額は年額およそ115万8,300円、月額9万6,525円程度になります。

これらの公的年金の額は、毎年誕生日月前後に送られる「ねんきん定期便」で確認することができます。
また、「ねんきんネット」に登録しておくと、今の仕事を65歳まで続けた場合、年金はいくらもらえるのかといった予想額も計算できるので、是非登録しておきましょう。

できれば退職金は老後資金に

老後資金の備えとして多くの人は退職金も考えているのではないでしょうか。厚生労働省が発表した「平成30年就労条件総合調査(2018)」によると、大学・大学院卒の退職一時金額の平均は1,983万円でした。

退職金で住宅ローンの返済を考えている人も多いかと思いますが、退職金は多くの人にとって年金以外の最後の収入になるものです。できれば老後資金に回せるように、ローンなどは早い段階から計画的に返済しておきましょう。

〈退職金の使い方〉
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3つのパターン別に必要な老後資金をシミュレーション

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独身

では、具体的に老後資金がどれぐらい必要になるのか、3つのパターン別に計算してみましょう。計算に使うのは①の「(年間の支出ー年間の収入)×(平均余命ー65歳)+その他の必要な資金=老後資金」です。

まず、22歳で就職し、65歳で退職する予定で、その間の平均年収が400万円である独身女性(現在40歳)の場合、

支出:15万532円×12ヵ月=180万6,384円
収入:国民年金78万1,700円+厚生年金93万2,100円=171万3,800円(年額)、
その他の資金:リフォーム270万円、旅行10回58万5,000円

という条件を①に当てはめると、老後資金は
(180万6,384円−171万3,800円)×(88歳-65歳)+270万円+58万5,000円=541万4,432円
になります。

1人暮らしでも500万から600万円程度は貯金が必要ということがわかります。

夫婦共働き

夫婦と子供2人の4人家族の場合はどうでしょう。夫婦どちらも22歳で就職し、65歳で退職する予定で、平均年収は夫500万円妻400万円とします。退職資金は妻の平均余命である88歳までの分を2人とも用意すると考えましょう。

支出:27万930円×12ヵ月=325万1,160円
収入:(夫)国民年金78万1,700円+厚生年金115万8,300円=194万円(年額)
   (妻)国民年金78万1,700円+厚生年金93万2,100円=171万3,800円(年額)
   合計:365万3,800円
その他の資金:リフォーム270万円、 結婚資金援助335万円、旅行10回117万円

これを同じように①に当てはめると、老後資金は
(325万1,160円−365万3,800円)×(88歳-65歳)+270万円+335万円+117万円
=−204万720円

夫婦共働きの場合、年金だけでなんとか老後は生活できる計算になります。

妻が専業主婦

次に、妻が就職して10年後、結婚して専業主婦になった場合を考えてみます。夫は22歳就職65歳退職でその間の平均年収は500万円、妻は22歳で就職して32歳退職、その間の平均年収は300万円とします。子供は2人です。

支出:27万930円×12ヵ月=325万1,160円
収入:(夫)国民年金78万1,700円+厚生年金115万8,300円=194万円(年額)
   (妻)国民年金78万1,700円+厚生年金16万9,400円=95万1,100円(年額)
   合計:289万1,100円
その他の資金:リフォーム270万円、結婚資金援助335万円、旅行10回117万円

これを①に当てはめると、老後資金は
(325万1,160円−289万1,100円)×(88歳-65歳)+270万円+335万円+117万円
=1,550万1,380円

このケースが最も多くの老後資金が必要になります。退職金が支給されればなんとかカバーできる金額ですが、会社に退職金制度がなければ自分たちで準備しなければなりません。

今からできる老後資金を補う方法は?

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iDeCo(個人型確定拠出年金)

個人型確定拠出年金は、もともとは自営業者のための制度でしたが、2017年からはiDeCoと名称をリニューアルし20歳以上60歳未満の方であれば原則として誰でも加入できるようになりました。この制度の特徴は、自分で拠出した掛金を自分で運用して将来の資産を形成する点です。掛金を拠出する時、運用する時、そして受け取る時に大きな税制優遇を受けられることが最大のメリットです。

ただし、一度iDeCoを始めてしまうと原則として途中でやめることができず、ずっと手数料がかかってしまうこと、運用は自己責任なので損失が出るかもしれないこと、そして60歳までは原則として引き出せないなどのデメリットもあります。

特に60歳まで引き出せないのはこれから結婚・出産を考え支出が大きく変わる家庭にとっては大きな問題ですので、安定した職業の人が余裕のある資金で始めるのに適した制度と言えます。

〈iDeCoについて詳しく知りたい方はこちら〉
iDeCoの特徴と注意点を紹介!老後が不安な人こそ活用を

つみたてNISA

つみたてNISAは、特に少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度で、2018年からスタートしています。コツコツと資産を形成するのに向いており、投資によって得た利益に対してかかる税金が最大20年間非課税になるというメリットがあります。

また、つみたてNISAで取り扱っている商品は、販売手数料がゼロ、信託報酬が一定水準以下、分配頻度が毎月でないことなど、すべての商品が、金融庁が決めた基準をクリアしていて、初心者の方でも安心して商品を選ぶことができます。

iDeCoと比較されることが多いですが、税制優遇の面ではiDeCoに一歩譲るものの、毎月買付のための手数料がかからないこと、そしていつでも売って現金にできることから、どなたにも利用しやすい制度です。

〈つみたてNISAについて知りたい方はこちら〉
つみたてNISAが投資未経験の人にもおすすめな理由とは

自分に必要な老後資金を計算し、早めの準備を

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将来必要な老後資金を3つの世帯パターンに分けてシミュレーションしましたが、「こんなに必要なのか」と思った人もいれば「なんとか準備できそう」と安心した人もいると思います。ただし、自分の生活スタイルや働き方、またライフプランによって必要な老後資金は変わります。今回ご紹介したシミュレーションを参考に、自分に必要な額を計算し、その額に向かって早めに準備を始めましょう。

文・松岡紀史
所属・ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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