フィードバックを受けて、早速著者にコンタクトをとったHさん。翻訳したい旨をお伝えしたところ、とても喜ばれ、Hさんのメールを出版社にも転送してくださったそうです。ただ、日本でこのメソッドを推奨している関係者への伝手は著者にもありませんでした。

Hさんは原書の出版社が日本の翻訳エージェントを通して版権の手続きなどをしていることを知り、そちらにもメールを送りました。出版社ではなく個人が連絡をした場合、エージェントから返信があることは少ないのではと思います。でもHさんはきちんと返信をいただけて、版権が空いていることを確認できました。さらに、エージェントも日本での出版を望んでいて、Hさんが翻訳を希望していることを喜んでくれたそうです。

版権の空きが確認でき、著者からも翻訳エージェントからも応援を受けたHさん。持ち込み先の候補としていくつかの会社を挙げてくれました。その中で「以前から惹かれていた出版社で、思想的なところでこの絵本と通じるところがあると思います」と教えてくれたA社(注:社名のアルファベットではありません)が、たしかに原書にも合っているように思いました。A社には独自の理念があり、それに沿った活動もしていて、本書とよくなじみそうです。

持ち込むために手直しした試訳と企画書をHさんが送ってくれたのですが、このとき、著者の別の絵本の翻訳書が日本でまもなく出版されるとわかり、Hさんは心配になっていました。

出版翻訳をしようとひとつの作品にかかりきりになっていると、そこに集中するため、著者の他の作品が出るときに不安になるのはよくわかります。ひとつの限られた小さなパイが奪われるような気持ちになってしまうものです。でも実際にはそのパイはもっと大きいし、誰かが少しかじったくらいで減ることはないのです。

それに、物事は受け取り方で気持ちも変わります。「他の作品が出るなんて、もう自分の手がける作品は必要とされない……」と思えば落ち込むでしょうが、「他の作品が出るなんて、著者が日本でも注目されてきてるんだ。これで自分の作品も出しやすくなる!」と思えばやる気が出てきますよね。Hさんのご報告を受けたとき、私は「すごい! Hさん、追い風吹いてるなあ」と思ったくらいです。