今は時代の過渡期なんだと思います。いろんな国や地域から、さまざまな声が出てくるのは仕方がないように思います。批判を避けたいのなら、ディズニー社は昔のヒット作の焼き直しではなく、アジアやアフリカや中南米で埋もれているユニークな神話や伝説をモチーフにした新作にさらに取り組むべきでしょう。また、キャスティングの問題以上に気になる要素が、ディズニー作品にはあると個人的には感じています。
アンデルセンが書いた原作童話『人魚姫』はみなさんもご存知のとおり、人魚姫と王子さまは結ばれず、人魚姫は海に溶け、泡となってしまいます。いわゆる、悲恋ものです。でも、悲恋だからこそ『人魚姫』は多くの人の胸に刻まれ、長年にわたって語り継がれてきたのではないでしょうか。片想いや失恋も、立派な恋愛だと思います。
アンデルセン自身も失恋ばかりして、生涯を独身のまま過ごしています。でも、数々の名作童話を書き残したアンデルセンの人生が、不幸だったとは断定できないと思うのです。
世界情勢に合わなくなっているディズニーの作品
先ほど触れた実写版『ピノキオ』では酷評されたシンシア・エリヴォですが、現在公開中のユニバーサル映画『ウィキッド ふたりの魔女』にアリアナ・グランデと共にW主演し、自慢の歌唱力をたっぷりと披露しています。
ミュージカルの古典的名作『オズの魔法使い』(1939年)の前日譚である『ウィキッド』は、シンシア・エリヴォ演じる「悪い魔法使い」ことエルファバの青春時代を描いたものです。『オズの魔法使い』の悪役イメージと違い、エリファバは誤解されやすいけど、心優しいキャラとして『ウィキッド』では活躍しています。
キャスティングうんぬんよりも、ハッピーエンドにこだわり続けるディズニー作品は、これからの時代はいろいろと限界が生じるようになるんじゃないでしょうか。シンデレラストーリーのその先までを描いたインディペンデント映画『ANORA アノーラ』(公開中)が今年のアカデミー賞主要賞を独占したように、王子さまと結ばれることだけが幸せではないことはすでに多くの人が気づいているわけです。