ドラマ前半では、お喋りする仲間が増えても急きょ椅子を増やすなどしてもらっていたが、後半になると、人数が増えると元同級生が営むスナックに場所を移したりする。SNSで話題となり、テレビでも取り上げられるなどし、行列ができる喫茶店と化す「もんぶらん」。清美、美波、葉月にとってそれまで決して特別ではなかった「もんぶらん」が、特別になっていく様子が描かれていた。一方、町に数少ないファミリーレストラン「ジョナサン」のことを、清美は学生時代から「ジョナ様」と特別視しているのも見逃してはならないことだろう。

 では、「特別が特別でなくなること」の原因はなんなのか。『ホットスポット』では、要因の一つをテレビ番組としているのではないか。

 テレビ番組のディレクター・岸本祐馬(池松壮亮)は富士浅田町に何度か訪れる。そして取材相手の町民たちに「自分にしかできない特別なこと」や「身の回りで起きた特別な出来事」を聞き出す。町民たちは「自分にとっての特別」を明かすが、岸本は「へー、そうなんですね」「すごいですね」と心がこもっていないような返事を繰り返す。そして最終的にどんどんボツにしていく。そして高橋が宇宙人であると気づいてその関連取材を進めるようになると、いろんな人が話す「特別」に対する無関心な素ぶりはさらに大きくなっていく。

 テレビ番組はこのように、それぞれの人にとっての「特別」を次々とボツにしたり、編集していったりする。それは「あなたの特別は、特別ではない」と勝手に判断しているようなもの。逆に「もんぶらん」のように、「特別」を次々と作り上げてもいく。『ホットスポット』を見ていると、テレビ番組はそうやってさまざまな功罪を含んだメディアであることがはっきりわかる。ちなみにディレクターの岸本は、タクシー移動中に富士山を見かけるたびにその風景を写真に収めようとする。ただ建物に隠れてシャッターチャンスを逃し続ける。いろんな人の「特別」に無関心な彼にとって、富士山は間違いなく「特別な存在」であるのがおもしろい。