『ホットスポット』の舞台となる町のシンボル、富士山の存在もそうだ。第1話では、清美、美波、葉月がいつも集まる喫茶店「もんぶらん」の窓から富士山が見えるカットが登場する。富士山が姿をのぞかせる窓を背景に、店の名物であるパフェを食べる3人。そのカットで表現されているのは、富士山が見せる風景は、町民にとって当たり前過ぎる日常になっていること。

 第2話では、美波がテレビの取材で「富士山は静岡と山梨のどちらのものだと思うか」という街頭インタビューを受けたことを、清美、葉月に報告する。しかしそれは町民にとってもはや聞き飽きた質問。富士山が日常の風景と化した人々にとっては実際のところ、どちらでもいいのだ。やはり富士山が特別性を失っていることが分かる。

 しかし最終回では、近未来の富士浅田町は自然の豊かさが失われ、荒廃することが明らかに。その影響で富士山も世界遺産を取り消されるというのだ。そこで初めて彼女たちの間にも危機感が生まれ、荒廃の原因となった梅本市長の不正を暴くことになる。そのとき遠藤たちは、富士山の世界遺産の取り消しは「自分たちにとっても(解決するべき)問題だ」と口にする。当たり前のようにあったものが、当たり前ではなくなる。それを知ってようやく、富士山の貴重さに気付かされるのだ。

 『ホットスポット』では随所で、電気グルーヴが富士山の存在の偉大さについて歌った曲「富士山」(1993年)が流された。富士山が雲より高いこと、自然がいっぱいであること、迷子になると危ないこと。同作が「特別なもの」をテーマの一つにしているドラマであると気づくと、富士山の存在価値を歌った同曲の聴こえ方もかなり変わってくる。

 前述した喫茶店「もんぶらん」も、「特別」というテーマに当てはまるもの。第1話では、清美、美波、葉月はのんびりとパフェを食べながらお喋りを楽しんでいるが、回を重ねるごとに店は繁盛し、3人は長居を遠慮するようになる。