医師が「胃ガンです」と言って、「はぁあっ……」とショックを受ける愛子がいる。愛子にとって、夫のガンを告知されるというのはそれこそ超特大ライフイベントなんですよね。この瞬間、もっとも大きく心が揺れているのは愛子だということに、脚本上はなっている。

 例えばここで間を作って結さんが愛子の肩に手を乗せる、愛子が結さんを見上げて、肩に乗せられた結さんの手を握り返す、みたいな演出を入れて結さんと愛子の心の動きを見せてあげると、このライフイベントを彼女たちがどう受け止めているかも察せられるところなんですが、このドラマはここに至っても主人公の結さんに「役割」以上のことをさせてあげられない。

 父親が、夫がガンを告知されたら、どうあれ頭の中にいろんな考えが駆け巡って脳みそフル回転すると思うんですよ。結さんの「全然早期やけん、大丈夫」「外科の先生もすごく頼りになる方やけん、安心して」というセリフはあくまで医療関係者という立場から絞り出されたものであって、本当に思っていること、言いたいことの代替であるはずなんです。

 このあと、ひとしきりNSTの回診も終わって帰っていくシーン、翔也が結さんを「凛々しくて頼もしかった」と評し、愛子は「すごく感動した」と言っている。ここで翔也や愛子が結さんに賛辞を向けるとすれば「不安に揺れる心を抑えて仕事に徹していた」ことであるべきなんだけど、単に通常業務をこなしていることしか評価できない。

 告知シーンの結のセリフも、NST回診後の翔也と愛子のセリフも、患者がパパ(北村有起哉)じゃなくても言えちゃうことなんです。「医療関係者である主人公の家族がガンになった」という設定のスペシャリティがまるで生かされていない。

 思い出したシーンがあるんです。

 糸島時代の第13話、結さんが書道王子にほのかな思いを寄せていたころの話です。

 王子がほかの書道部員と「好きな女の子のタイプ」について話していて、「まあ、小柄で、親しみやすくて、元気で、笑顔がかわいい子ですかね」と言っている。これを盗み聞きした恵美ちゃんが「これもう、結ちゃんやろ!」と結さんに伝えて、結さんテンション爆上げということがあったんですが、このとき、変なシーンだなと思ったんです。