大悟はそう前置きすると、「はいどうも」とネタに入っていく。ノブも「はいどうも、お願いします」と続ける。誰も見たことのない、千鳥本人さえ何が起こるかわかっていない新作漫才が、カメラの前で突然に始まったのである。
「うわぁああ……」
スタッフの声が漏れる。テレビの前でさえ、これは大変なことが始まったと感じられるのである。現場の雰囲気は察するにあまりあるところだ。
「まだ世に出てない新作漫才ネタ作りは尊すぎるのでカット」
いくつかの静止画をつなぎあわせたダイジェストで、その一連のくだりはカットされた。当然の判断だろう。重要なのはそれが放送されたか否かではなく、カメラが回っていることをわかった上で、千鳥がネタ作りを始めたことなのだ。このスタッフには、その姿を見せていい。どう編集されて何が放送されてもいい。そういう千鳥の判断の元で、収録が行われたことが事件なのだ。
収録が早朝から深夜に及ぶ『いろはに』のギャラは、この回でも大悟が「安いけどね、ダントツじゃない?」とボヤく程度には安い。それでも500回の放送を重ね、その記念にスペシャルなプレゼントを収録させてみせる。
演者とスタッフが、こんな幸せな関係を築いた番組がほかにあるだろうか。
(文=新越谷ノリヲ)