◆「主演俳優であることを自力で証明する」山田裕貴の存在感
――第1話、2話までは、赤楚さんの出演パートのほうが比較的多いかなと思って見ていたんですが、ちょうど折り返す第5話あたりから、ああやはり山田さんが主演だなと思う瞬間が頻出します。露天風呂に入り、星空を眺める表情などが特にそうです。『ペンディングトレイン』では、全編を通じて、山田裕貴という俳優に不思議と興味が湧いてくる感覚があるように思います。
金子:山田さんは、脚本上の「……」の表情や、気持ちの流し方の精度が抜群に高いです。「思い出が解けてゆく」とか「寂しさが胸を貫く」など、私はいつもト書きに心情を書くんですが、山田さんは少なめでいいなと途中で思ったくらい、すべて完璧に理解して演じていらっしゃるようでした。もちろん、監督や宮﨑プロデューサーのご尽力もあったかとは思いますが。
山田さんはその「……」に加え、セリフが全てナチュラルであり、でも表情が予想の斜め上に来るという面白さがあると思いました。特に第1話の「疲れた」は、崖を登ってへとへとになる身体的な意味ではなく、ずっと頑張ってきた、でも人生ままならない精神的な「疲れた」です。
そう事前に話し合っていましたが、なるほど、第1話からいきなりこの表情できたかと驚きました。スキージャンプなら、K点越えの演技です。
――消防士役ではなく、あえて美容師役を選んだところに、やはり山田さんの勝算があったのですね。
金子:それはご本人に聞いてみたいです。ご指摘のように、消防士の優斗は、活動的で、アクションも多く、赤楚衛二さんの輝くオーラには本当に目が行きます。そして赤楚さんの持つ清廉さ、ひたむきさはまさにヒーローです。でも山田さん演じる直哉もその複雑な設定を背負いながら、また別の輝きを放っていきます。
彼にしかできない演技で、主演俳優であることを自力で証明する、山田裕貴ここにありの存在感。初主演作品の演技としてこれほど素晴らしいものはありません。
<取材・文/加賀谷健 撮影/星亘>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu