◆直哉の脳内とリンクしながら、彼の心を辿る
――自分で自分を苦しめ、孤軍奮闘する彼らがいざ行動に移した瞬間のエモーションは、誰よりもすごい力を発揮します。静から動へのダイナミズムこそ、金子さんが描くキャラクターたちの魅力だと思いますが、どのように造形するのでしょうか?
金子:まず最初にキャラクターの感情の沸点を決めるんです。その人物の喜怒哀楽が、一番表出するところを決め、そこから逆算しながら構成します。
おそらく感情の沸点は、ドラマで言えばエモーショナルな音楽が流れるところだし、見どころです。でもそれが見つからないこともあります。そういうときは、キャラクターについて何かが見えてないということです。
例えば、第7話が象徴的です。直哉のこれまでの人生には、期待して裏切られるから怖いという感情があり、ではその根幹には何があるんだろうと考えました。最初は見つからず、直哉の記憶をたどった時に、そうか、お母さんの存在だと気づきました。それですべての話が組み上がったあと、直哉のラインを入れ直しました。
――直哉が、まだカリスマ美容師になる前、幼い弟をひとり育てるアパートのドアをお母さんがノックする場面ですね。
金子:そうです。あの夜、魚を焼いていると、不意にお母さんが帰ってきたという記憶が、直哉の中にはあるんだとひらめきました。実は直哉はずっとお母さんがノックするのを待っていた。その姿が見えたんです。
直哉はどんな人で、彼の心の奥にどんな記憶が眠っているのか。優斗はどんな過去を抱え、どんな思いがあるのか。全話を通して、ときに彼らの脳内とリンクしながら、その心を辿る作業になりました。
――ドラマの話数が重ねられ、展開が進むごとにだんだん心の声が聞こえてきたというような感覚ですね。
金子:そうです。さらに直哉を演じる山田さんの演技を見ると、これは思ったより傷が深そうだなという発見もありました。