◆心をむしばむ差別発言
深沢:婚約が決まったとき、方子さんのクラスメイトは口さがなく噂しましたし、その後も「子どもを産めない体質だから、朝鮮王族の結婚相手に選ばれたらしい」という噂が根強かったそうです。日本にとっては政略として結婚はさせるけど子孫を残すとなると不都合が出てくる……というところから出てきた噂なのでしょうけれど、本人の耳に入ったとき、どれだけ心をえぐられたかと思うと胸が痛みます。いたるところでマイクロアグレッションが行われていました。
――マイクロアグレッションとは、マイノリティに向けた言説のうち、あからさまな差別ではなく、一見悪意がないように聞こえるけど、攻撃的なメッセージが込められているため、受け取る側はネガティブな感情を抱く、というものですね。たとえば「ゲイっておしゃれだよね」というような。
深沢:最近知られるようになってきましたね。じわじわと心を削るものだと思います。
――日常に差別が組み込まれているということは、非日常の状態になればそれが一気に噴出する危険を孕んでいるのではないでしょうか。特に関東大震災……1923年に発生して10万人以上の死者、行方不明者を出した地震の直後は、差別がたくさんの悲劇を生んだことが本作を読むとわかります。
深沢:朝鮮人が井戸に毒を入れたなどのデマが流れ、それにあおられた人による朝鮮人虐殺が起きたことはよく知られていると思います。それと並行して、朝鮮人の女性が陵辱されたという記録も残っています。
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