◆社会構造は見えにくい

深沢:先ほどお話ししたとおり、それが終戦の一夜にして立ち場が逆転するわけですが、これも構造が変わったがためで、でもその構造はどうにもできない。だからそこにいる個人に矛先(ほこさき)を向けることになります。

現在も、同じことが起きていますよね。現実につらいことがあってもその背景にある社会構造には目がいかないから、たとえば「女性ばかり優遇されていてズルい」のように身近なところに憎悪が向きます。

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――その方子さんが、構造の問題に気づくきかっけになったのが義妹の結婚だったのではないでしょうか。夫・李垠(り・ぎん/イ・ウン)の妹で、いうなれば“お姫さま”ですが、日本に連れてこられて自由がまったくない生活を強いられ、精神に不調をきたし、本人の意向はまったく無視して政略結婚が進められます。

深沢:徳恵翁主(王女)、韓国では「トッケオンジュ」と呼びます。晩年は離婚して韓国に戻り方子さんと一緒に暮らしましたが、精神の健康を取り戻すことはなかったようです。取材するなかで、方子さんは徳恵翁主をずっと気にかけて見守っていたと聞きましたが、そこには結婚を止められなかったことや病院に入れてしまったことなど、いろんな後悔もあったのでしょう。