◆「したくない側」の心理が事細かに語られる
一方の楓は、結婚記念日でのことを悪いとは思っている。いつもはせっせと世話を焼いてくれる夫がうっとうしいとも感じていた。自分が責められている気持ちになるからだ。ところがみちと激しいキスを交わして帰宅した誠は、楓からの「埋め合わせデート」の誘いを断る。さらに「先に寝るね」とあっさり言われて気が抜けたような顔になる。
セックスを拒絶してきた当人に限って、相手の心が離れそうになると「何かが違う」と感じるのかもしれない。
「したくない側」の心理が事細かに語られているのがおもしろい。客観的にみると、拒絶する理由は「たいしたことではない」ようにも思えるが、楓にとっては「疲れるだけ。今は仕事で重要な時期。疲れるセックスはしたくない。もし妊娠したらキャリアに差し支える」のは大事なことなのだ。
陽一にとってのみちは、「母的な存在」なのだろう。自分にはきれいにできたオムライスを出し、焦げたのを食べている妻を、彼は当たり前に眺めている。彼が意識しているかどうかは別として、妻の犠牲は、彼にとってはそのまま「子に尽くす母の犠牲」に取って代わったものになっているのだ。だから妻とはできない。
夫婦がそれぞれ不倫をしたら、夫婦関係はどうなっていくのだろうか。