伊丹十三監督から受けた影響

 今年の前田哲監督は、広瀬すず主演の『水は海に向かって流れる』(6月9日公開)、神木隆之介主演の時代劇『大名倒産』(6月23日公開)などの話題作も公開待機中だ。売れっ子となった前田監督だが、相米慎二監督がプロデュースしたオムニバス映画『ポッキー坂恋物語』(98)で監督デビューする以前は、撮影所で大道具や美術スタッフ、多くの監督たちの助監督に就くなどの下積みを経験をしきてきた。

前田「いろんな監督たちの現場に就き、いろいろと学ばせてもらいました。俳優との接し方は滝田洋二郎監督から、企画の考え方は伊丹十三監督からの影響が大きいように思います。伊丹監督は俳優から監督になったこともあり、映画制作のセオリーに囚われない自由な発想で考える人でした。そのとき話題になっている社会問題をそのまま描くのではなく、エンタメ作品に仕立てるセンスがとても優れていました。『大名倒産』も時代劇の常識に囚われずに撮っています。『ロストケア』もそうです。介護問題や社会格差を題材にしていますが、『松山ケンイチと長澤まさみの演技バトルがすごいことになってるよ!』というところから興味を持ってもらい、映画を見終わったら何かしら心に届くものがあればいいなと思っているんです」

 下積み経験が長かった分、前田監督の映画づくりはしっかりと地に根づいたものとなっている。日本映画界の注目すべき監督のひとりだと言えるだろう。

『ロストケア』
原作/葉真中顕 脚本/龍居由佳里、前田哲 監督/前田哲 主題歌/森山直太郎「さもありなん」
出演/松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす(ずん)、岩谷健司、井上肇、綾戸智恵、梶原善、藤田弓子、柄本明
配給/東京テアトル、日活 3月24日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
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