原作小説を思い切った脚色で映画化
10年がかりで本作を映画化したのは、家族の絆の在り方を問い掛けた『そして、バトンは渡された』(21)や高齢化社会をコミカルに描いた『老後の資金がありません!』(21)をヒットさせた前田哲監督。障がい者と介護ボランティアとの関係性をクローズアップした『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)など、社会的なテーマをエンタメ作品として撮り上げることで定評がある。容易ではなかった『ロストケア』の制作内情について、前田監督に語ってもらった。
前田「原作小説が出版された2013年から、ずっと映画化に取り組んできた企画でした。松山ケンイチさんとは『ドルフィンブルー フジ、もう一度宙(そら)へ』(07)で仕事をし、『また、一緒にやろう』と連絡を取り合っていたんです。僕が『ロスト・ケア』をちょうど読み終えたタイミングで、松山さんから連絡があったので、『ロスト・ケア』を勧めたところ、彼もすぐに読んでくれた。それで『やりましょう』と言ってくれたんです」
主演俳優は決まったものの、高齢者を次々と安楽死させる介護士をめぐる物語ゆえに、映画化の実現には時間を要した。配給会社に企画書を持ち込むが、なかなか決まらない。配給会社が変わるたびに、脚本を書き直すという作業が続いた。
前田「小説ならではのトリックが仕掛けてある原作をそのまま映画化するのは無理だったので、大友と斯波との対決に焦点を絞った形での映画化を進めました。日活の有重陽一プロデューサーから『検事の大友を女性にしてみては?』というアイデアをもらい、よりエンタメ度が高い映画になったと思います。本来は原作者にお金を払って、原作の映画化権を抑えておくべきなんでしょうが、こちらが用意できるのは、企画書と脚本、それと熱意しかありませんでした。それでも、原作者の葉真中さんは10年間ずっと待っていてくれたんです」