緊張感はいつでもある。でも、それが性に合っている
趣味で車やバイクの運転を楽しんでいたのとは違い、仕事として走ることにはまた別の魅力があるという。
「今運転している大型トレーラーは、普通の車とはまったく別物で、かなり運転が難しいんです。バックモニターもなく、目視できない範囲が多いので、右左折やバックのときは、頭の中で緻密に計算しながら、自分の経験を総動員して運転します。
スリルというとちょっと語弊があるかもしれないですが、ある種の緊張感が心地いい。難しいから辞めようとは思ったことは一度もないし、むしろ難しいからおもしろいですね。
それに、ドライバーは基本的に個人プレーの仕事。運送中に荷物を壊しても、自分の責任です。私は連帯責任より自己責任の方が性に合っていて、ストレスなく働けるタイプなので、本当にこの仕事が向いているなあと感じています」
福田さんは社内でも指折りの運転センスの持ち主。人によっては数カ月かかる大型トレーラーの運転技術を2週間程度で習得し、早々に独り立ちした。会社の先輩からも「センスがある」と褒められる。
そのおかげでストレスなく技術を習得でき、楽しくてさらに仕事が好きになる、という好循環が生まれた。
「でも、自分の腕を過信はしません。当たり前ですが、安全運転には本当に気を付けています。
トラックは車体が大きく、積み荷も重いので、ちょっとしたミスが大事故につながりかねません。今のところ、ぶつけるような事故は一度も起こしていないのですが、常に緊張感は持っていますね」
田代運輸へ転職したのは、前の会社の人間関係に不満があったからだと明かす。前職では人が少なく、平均年齢も高かったこともあり、もっと人間関係に幅を持たせたくなったのだという。
シングルマザーとして実家で子育てをしているため、実家からの距離を第一条件にリサーチ。いくつかの候補の中から田代運輸を選んだのは、営業所全体の従業員が約50人というほどよい規模と、いろいろな人がいそうなところが気に入ったからだと話す。
「正直、待遇はどの会社もそれほど大きく変わらない気がします。だからこそ人間関係がよく、ストレスなく働ける会社を選びたかったんです。
ここは本当にみんな仲良し。同年代の仲間もいるし、1割ほどいる女性はみんな気さくだし、上司もかわいがってくれて何でもフランクに相談できます。営業所に帰ってきた時に、くだらない話で盛り上がる時間がすごく好きですね」
大変な仕事を乗り越えられるのは「楽しい」から
現在、子どもは小学1年生。同居の家族の協力もあり、福田さん自身は特に「小1の壁」などを感じずに働けている。また、田代運輸では子育てや家庭の事情に合わせて、働き方をフレキシブルに変えることも可能だという。
「トラックドライバーというと不規則なイメージがあると思いますが、基本的には土日休み。私の場合は、幸い家族が協力してくれるので、日曜出勤や地方への泊まりの運送も入れています。稼ぎたい人であればそういう選択肢もありますよ。
一方で、子どもがいるなど事情があれば、ある程度融通を利かせてくれます。私も息子が保育園の頃、遠方への運送担当から外してもらったことがありますしね」
福田さんは、単に日々の仕事を楽しむだけでなく、仕事を通して自分を成長させたいという思いも強い。
「現在はコンテナの物資を輸送していますが、今後はフェリーを使う海上輸送や鋼材輸送もやってみたいですね。ずっと同じことだけをやっていると成長がなく、ドライバーとしての幅が広がらないですから」
「もちろん、大変な仕事だなと思うこともあります。先週は山形、今週は神戸まで走りましたから。でも、好きだから続けられるんです。
私はこの仕事が好きで、やっぱり楽しいと思っていますから。以前特別に子どもをトラックに乗せたことがあるのですが、喜ぶ顔が見られてよかったです」
仕事が好きで、仕事をしている時の自分も好き。さらに、その姿を子どもに見せることに喜びを感じられるというのは、すごく幸せなことに思える。
転職するとき、ワークライフバランスが取れるかどうか、女性が働きやすい職場であるかなど、さまざまな条件を考慮した結果、最終的に「無難な仕事」に落ち着くことがあるかもしれない。
もちろん、働く上で「条件」は大事なこと。でももっとシンプルに「その仕事を好きかどうか」で選んでみてもいいはずだ。自分の感覚を信じて一歩を踏み出してみれば、思っていた以上に楽しい未来が開けるかもしれない。
母の表情をのぞかせながら笑う福田さんの姿に、「好き」こそ継続の原動力だということ、そして、どんな状況でも「仕事を楽しむ」ことの大切さを教わった気がした。
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