C社に持ち込むためにIさんがアップデートした企画書は、この連載でお伝えしているスタイルとは、かなり違うものになっていました。
この連載では、忙しい編集者さんに目を通していただきやすいように、企画書は1~2ページでまとめるようにお伝えしています。だけどIさんの企画書は写真をダイナミックに挿入した結果、計5ページになってしまったのです。
これには、Iさんなりの思い入れがありました。自分が原書に惚れ込んだきっかけは、このアーティストの作品写真を目にしたことだと気づいたのです。だから、たとえ企画が通らなくても写真だけは絶対に見てもらえるように、参考資料ではなく、企画書に挿入したのです。
ページ数が増えたことで、編集者さんに見てもらえないかもしれないとIさんは心配されていました。でも拝見したところ、5ページといっても写真が大半のため、文字が詰まったものと違って分量を感じませんでした。
作品が入ったほうが、たしかにインパクトがありますし、独自性を伝えられます。「もしご縁がある編集者さんであれば、写真を気に入ってもらえるんじゃないかな?」とIさんは考えたそうですが、ビジュアルがあることで、ピンとくる方にはピンとくるかもしれません。
そこで、この企画書でC社に持ち込むことにしました。C社の編集者さんには私が面識があったので、Iさんの持ち込み企画をご検討いただきたいと、私のほうからご連絡をしました。
その際、アーティストの評伝があること、絵本も出ていること、その絵本がC社から刊行されている作品に通じるものがあること、そしてIさんに翻訳実績があることをあわせてお伝えしました。
ご検討いただけるとご連絡があったので、企画書と資料一式をお送りしました。それから2週間ほどでお返事があったのですが、残念ながら、刊行は見送りたいとのことでした。
アーティストには興味を持っていただけたものの、現在の出版市場において制作コストと販売との兼ね合いを考えると難しいとのこと。
結果は残念でしたが、私にだけでなくIさんにも編集者さんから直接ご連絡があり、きちんと理由を説明いただいたそうで、Iさんも納得されていました。