拝見した試訳でひとつ気になったのは、「見て」という登場人物の言葉です。語り手は男性ですが、女性にも読めてしまいますよね。冒頭に登場した男性の語り手が話を続けていくのですが、この言葉が出てきたとき、男性から女性に切り替わったのかと思いました。視点人物が次々に切り替わっていくタイプの小説のように読めてしまったのです。余計な混乱を招かないために、はっきりと男性のセリフだとわかるように変更をおすすめしました。

もうひとつ気になったのは、「銀色のしわ」という表現です。一瞬さらっと読めてしまうのですが、よく考えると、銀色のしわって、どういうことだろうと思いますよね。色の表現は、なかなか難しいものです。私も『虹色のコーラス』を訳したとき、「赤銅色の髪」と当初訳したのですが、編集者さんから指摘を受けたことや、検索した際に出てきたのがアニメのキャラクターだったので、読者のイメージが違うほうに固定されてしまうかもと思ったこともあり、「赤みの強い茶色の髪」に変えました。引っかかる表現があると小説世界に入りづらくなるため、冒頭部分は特に慎重にチェックをしましょう。

この2点以外はすでに質の高い翻訳でしたので、企画書と合わせ、持ち込み先を検討しました。いくつかの候補の中で、ふさわしいと思われたのがA社です。作風が通じる、社会派の長編小説を出版しています。私にも特に伝手はなかったので、Kさんはお問い合わせ窓口からアプローチしてみました。すると……次回に続きます!


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