2020年から拡大した新型コロナウイルスにより、地方移住に対する関心が高まっていますが、地方に移住するにはどれぐらいの費用がかかるのでしょうか。ここでは実際に東京と地方都市を比較してご紹介します。

コロナ禍で地方移住を考える人が増えている

コロナ禍によって「新しい生活様式」が普及し、働き方も変化しました。多くの企業でテレワークが導入され、自宅やコワーキングスペースなどで働く人も増えました。会社に行かなくてもさまざまな場所で仕事ができるようになったことや、人口が密集した生活からの回避という意味で、地方移住に対する関心が高まっています。

内閣府が行っている「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、東京圏に住んでいる人のうち、地方移住に関心がある(「強い関心がある」「関心がある」「やや関心がある」の合計)と答えた人の割合は、2019年12月時点では25.1%だったのに対し、2021年9月から10月期では34.0%まで上昇しました。

地方移住にかかるお金は?

地方への移住に際してはさまざま初期費用がかかります。引越し代や住居費用の他にも、地方都市での生活には必須の自動車購入費、さらには新生活を始めるために家具や家電を買い替えるケースもあるでしょう。

都会から地方に引っ越す場合、夫婦2人と3人家族の2パターンで、どのくらい費用がかかるのかをまとめたものが表1です。

表1. 地方移住にかかるお金の例
夫婦2人 3人家族
引越し代(通常期5月〜1月で500km未満) 11万円 15万円
住居 敷金 10万2,000円 12万8,000円
礼金 10万2,000円 12万8,000円
仲介手数料(1ヵ月分) 6万1,000円 6万9,000円
家賃(1ヵ月分)※ 5万6,000円 6万4,000円
火災保険料 2万円 2万円
自動車購入費 (中古)70万円 保有
その他 (家具・家電購入、引っ越しの下見費用など) 20万円 30万円
合計 約135万円 約86万円
※家賃は長野市の相場(夫婦2人は1LDK、3人家族は2LDKの価格)

引っ越し後、どの程度家電や家具を購入するのか、また車をすでに保有しているのかなどによって金額は変わりますが、移住をスタートするだけで100万円を超える費用がかかることもあります。事前にしっかりと試算し、計画的に資金を準備しておくことが大切です。

都会と地方の生活費を徹底比較

移住にかかる費用は大体イメージができたと思いますが、実際に生活をはじめてからはどれぐらいのお金がかかるのでしょうか。ここでは東京都23区内の生活費と、移住先として人気の長野、静岡、山梨を比較してみましょう。

東京都内と長野・静岡・山梨の生活費の比較

総務省が2022年2月に発表した「家計調査 家計収支編 2021」によると、東京都23区と地方都市の勤労世帯の1ヵ月の収入は以下の結果でした(表2)。

表2. 東京都23区と地方都市の収入の比較
東京都23区 長野市(長野県) 静岡市(静岡県) 甲府市(山梨県)
収入 64万6,000円 53万5,000円 54万3,000円 36万4,000円
出典:「家計調査結果」(総務省統計局)

収入の面で言えばやはり東京都23区はかなり多く、長野市・静岡市に比べ10万円、甲府市に比べ約28万円高くなっています。

次に、生活費を比較してみましょう(表3)。

表3. 東京都23区と地方都市の生活費の比較
東京都23区 長野市(長野県) 静岡市(静岡県) 甲府市(山梨県)
食費 8万3,000円 6万5,000円 6万6,000円 4万8,000円
住居費 3万8,000円 2万8,000円 2万5,000円 2万5,000円
水道光熱費 1万5,000円 1万4,000円 1万8,000円 1万9,000円
家具・家事用品 1万2,000円 1万円 9,000円 6,000円
被服費 1万2,000円 9,000円 7,000円 6,000円
保健・医療 1万4,000円 1万4,000円 1万2,000円 7,000円
交通・通信 3万5,000円 4万5,000円 3万9,000円 3万4,000円
教育費 2万1,000円 9,000円 1万3,000円 6,000円
教養娯楽費 3万5,000円 2万7,000円 2万5,000円 1万5,000円
交際費 1万5,000円 1万3,000円 8,000円 1万円
その他 3万9,000円 4万3,000円 4万1,000円 3万7,000円
税・社会保険など 12万4,000円 10万7,000円 9万5,000円 6万4,000円
支出計 44万3,000円 39万円 35万8,000円 27万1,000円
出典:「家計調査結果」(総務省統計局)

地方暮らしといっても極端に割安な出費は少なく、項目によっては、水道光熱費や交通・通信などのように都会よりかかるものもあります。

東京と地方都市の収入差を考えると、大都市から地方に移住したからといって、家計が大幅に改善し生活に余裕が生まれるわけではないことがわかります。

地方暮らしと都会暮らしの生活費はここが違う!

都会暮らしに比べ、地方暮らしは全体的に生活費が少なくはなりますが、支出の内容によっては都会よりお金がかかることもあります。ここでは主に地方暮らしと都会暮らしの支出の傾向で、大きく異なる点を見ていきましょう。

<食費>
食費に関してはやはり東京の方が高くなっています。その差は長野市や静岡市に比べて2万円弱、甲府市に比べると3万5,000円にもなります。東京での食費が高いのは、外食費がかかることも原因の1つですが、野菜、肉類、卵類などの生鮮食品の食材費が地方都市に比べ少しずつ高いことも影響しているようです。

<住居費>
住居費では、都会と地方では約1.3〜1.5倍の差があります。なお、表3の住居費は全体的に低い金額になっていますが、これは主に家賃や修繕費が対象になっているためです。賃貸で暮らしている人の住居費の比較となっているので、持ち家の人が払っている住宅ローンは除外されています。

<水道光熱費>
水道光熱費に関しては、地方に行けば安くなるというものではなく、むしろ静岡市や甲府市の方が東京よりも高くなっています。また、都市部では都市ガスが使用されていますが、プロパンガスをメインで使用している地域ではガス代がより高額になることもあります。

<交通費>
長野市や静岡市では交通にかかる費用がかなり高くなっています。地方では車を所有することはほぼ必須なので、ガソリン代などの車関連費は都会にいる時よりかかることは覚悟しましょう。

<教育費>
東京の教育費は2万1,000円と、今回比較した地方3市と比べて非常に高いことがわかります。長野市の2.3倍、静岡市の1.6倍、甲府市の3.5倍です。首都圏では、私立大学の人気が高いことや、中学受験のための習い事などで、早い段階から多くのお金がかかるのかもしれません。

お金以外で地方移住のメリット、デメリットはどんなところ?

地方に移住すると、お金の問題以外にも都会の生活と異なる点があります。ここでは地方移住の主なメリット・デメリットを見てみましょう。

地方移住のメリット

地方都市は首都圏のように人口が密集していないので、満員電車がなく長距離通勤もあまりない分、ゆったりとした環境で暮らせるというイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。

<通勤・通学にかかる時間が少ない>

表4は通勤・通学にかかる時間の比較です。

表4. 通勤・通学にかかる時間
東京都 長野県 静岡県 山梨県
1時間34分 1時間2分 1時間8分 1時間
出典:「平成28年社会生活基本調査結果」(総務省統計局)

地方では通勤・通学にかかる時間は東京より約30分ほど短くなっています。通勤や通学にかかる時間が短いことで、時間を有効活用できます。また、それほど混んでいない電車もしくは車での通勤・通学は、満員電車に乗って通勤・通学するよりはストレスが軽減されるでしょう。

<子育ての環境がいい>

子育て世代であれば、子どもの育てやすさも重要な要素です。表4でご紹介したように、地方では職住近接の環境を築きやすいので、夫の育児への参加もしやすくなることが期待できます。

また、一時期に比べ数は減ってきているとはいえ、都心は依然として待機児童の問題があります。表5は東京都と長野県、静岡県、山梨県の待機児童の数の比較です。

表5. 待機児童の数と待機児童率
東京都 長野県 静岡県 山梨県
待機児童数 2,343人 46人 122人 0人
待機児童率 0.73% 0.09% 0.18% 0%
出典:「2020(令和2)年4月1日時点の待機児童数について」(厚生労働省)

東京は待機児童数が多く、待機児童率を見ても非常に高いことがわかります。待機児童数が少ないことは共働きのしやすさにつながります。

地方移住のデメリット

通勤・通学の利便性や子育て環境のメリットがある一方で、地方で生活することにはデメリットもあります。ここでは主なデメリットを2つ取り上げます。

<近所付き合いが密な場所も>

地域にもよりますが、特に一戸建ての家などに居住すると、町内会や組合などに加入し、地域のために無料で奉仕を求められることもあります。近所付き合いが苦手な人は分譲地を選ぶなどの対策を考えておく必要があります。

<老後の生活が不便>

地方では車が必須になるところが多いですが、高齢になるにつれ運転することが難しくなり、買い物などが負担になってきます。また、近くに病院などがなければ、結局は身寄りのある都会に戻らなければならない可能性が高くなります。

安易な移住はNG。しっかり計画を立てよう!

地方移住にかかるお金とその他のメリット・デメリットをご紹介しました。人口密度が低く、子育ての環境がいいなどメリットもありますが、地方だからこそかかる費用や、老後の生活といった問題もあります。イメージだけで移住を決めるのではなく、例えば各自治体が実施している「お試し移住」などを利用して地方暮らしを経験しておくなど、しっかりと計画を立てて実行に移しましょう。

松岡紀史
筑波大学大学院経営・政策科学研究科(現システム情報工学研究科)でファイナンスを学び、修士(ビジネス)を取得。2010年、保険・投資信託を売らない完全に中立なファイナンシャル・プランニングを提供するため、神戸で「ライツワードFP事務所」を設立。マネーセミナーや執筆のかたわら、10年以上フィー・オンリーのファイナンシャル・プランナーとして従事している。

■保有資格:日本FP協会認定AFP
筑波大学大学院経営・政策科学研究科(現システム情報工学研究科)でファイナンスを学び、修士(ビジネス)を取得。2010年、保険・投資信託を売らない完全に中立なファイナンシャル・プランニングを提供するため、神戸で「ライツワードFP事務所」を設立。マネーセミナーや執筆のかたわら、10年以上フィー・オンリーのファイナンシャル・プランナーとして従事している。

■保有資格:日本FP協会認定AFP

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